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追憶の彼方から放されたい 136

 あとは何か作りながら、と腰を上げキッチンに向かった。
 二人で並んで手際のいい唯くんの真似をしながら克巳もたどたどしく手を動かす。
 その間に口も動く。
 色々小さい頃の話から好きな人と一緒に住むようになったいきさつとか現状まで。

 「男同士でどうなの?…って最初は悩んだけど…でも僕は航さんしか特別じゃないから…」
 「…分かる」
 克巳もピーラーでジャガイモの皮を剥きながら頷く。
 「そんなの些細な事に思えない?なにしろ自分は人からも外れているような気がするから」
 「そう!」
 唯くんがこっくりと深く頷く。

 「こんな気持ちは俺と唯くんしか共感できないよね」
 「…うん。本当に江村さんと仲良くなれてよかったと思う」
 「俺も」
 弟がいたらこんな感じなのかな、と克巳は自分よりも目線の低い唯くんを見て微笑ましく思ってしまう。

 人とは違うという葛藤を分かち合える存在があるという事が奇跡のようだと思う。こんな気持ちは誰にも分からないと思っていたのだから。唯くんもそう思ってるだろうかと視線を向けると唯くんも克巳を見てて視線を合わせれば自然と表情が緩み、唯くんも同じだった。

 
 料理がどうにか出来上がった頃、示し合わせたように尾崎が帰ってきたと思ったら武川刑事も唯くんを迎えにやって来た。
 武川刑事は克巳にまで警戒していたようだったのに今は大丈夫そうだ。
 …というかここに尾崎がいるのが不思議そうな顔をしていた。

 「…武川刑事って…知らないの…?」
 「でしょうね。克巳は隠すのうまいから」
 こそりと尾崎に耳打ちすると尾崎が苦笑した。そして唯くんと武川刑事も仲良さそうにこそこそ話しをしている。
 なんかいいな…と克巳は満足だ。
 普通なら自分の特殊な力も人に知られたくないし、尾崎との事も隠しておかないといけない事なのに自然体でいられるのだ。

 唯くんがどう説明したのかそれでも武川刑事の態度は変わらずで大事なのは唯くんだけといういうのが見え隠れしている。
 唯くんとダイニングテーブルに作った料理を並べていると、尾崎と武川刑事が話をしてた。
 「尾崎銃創は?どんな具合だ?」
 「傷は大分よくなりましたね」
 「聞いたけど無茶するよな…」
 
 「そりゃね、でも大事な人守るためなら。武川さんもそうするでしょう?」
 「まぁな」
 そこは否定しないらしい。
 ダイニングは四人掛けで尾崎と武川刑事が向かいあわせで座っているのが不思議な感じだし、唯くんと夕飯の用意をしているのもくすぐったい。
 もう全部が克巳にとっては普通じゃないのだ。
 
 ご飯を食べて少ししてから唯くんと武川刑事は帰って行った。
 年が大分違うのに二人の間には甘い空気が漂っているのは見えるようだった。こっちの方が食傷気味かも、と尾崎と二人になってから笑ってしまう。
 「あ!尾崎の写真見せればよかった!」

 「キミね…」
 尾崎が頭を抱えた。
 「やめてください。克巳一人で喜ぶならまだしも…。ところで、今日からシャワー軽くならOK出たんですが?」
 「そうなのか?」
 「ええ。なのでいきましょ」
 「え?」
 尾崎が克巳の腕を引っ張る。

 「頭とか洗うのはまだキツいので克巳にしてほしいな、と」
 「あ、そっか…」
 一緒に風呂というのは克巳にとってはハードルは高いが確かに一人では難しいか、と納得する。
 「お風呂場も広いですからね」
 にっこりと笑みを浮べる尾崎の顔が怖い。

 「本当は色々俺をダシにして遊んでくれてるのでその分のお返しを克巳にはしてあげたい所なのですが…さすがにそれはちょっと無理かな…。傷が完全に良くなるまで待っててください」
 「…いや、いらないけど」
 唯くんにまで写真見せてたらやばかったかな?と眼鏡の奥から光る目にびくりとしてしまう。
 でもそのうちやっぱり見せてやろう、と密かに心の中で決める。自分一人だけの中に仕舞っておくのは勿体無いと思う。

 「克巳?今よからぬ事考えたでしょう?」
 「ん?…何の事だ?」
 しらばっくれたが尾崎にはお見通しらしくちろりと睨まれた。
 「……お仕置き決定ですね」
 尾崎はぐいぐいと克巳の体を風呂場まで引きずるようにつれていき、服を脱がせる。

 「克巳も、俺の脱がせて」
 尾崎の眼鏡を外しシャツを脱がせていく。そんな事をしているのにも照れてくる。
 「そんなに恥かしがらなくともいいのに。エロいとこなんかもう色々見てるでしょ?」
 そうなんだけど、だからといって慣れるわけではないと思う。
 
 
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