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2012.08.12(日)
明羅は思わず夢中になって時間を忘れていた。
はっとして壁の時計を見ればもう夜中の二時を過ぎていた。
自分的には別になんともない時間だが、怜の事を考え、明羅は電源を落として部屋を出た。
リビングはすでに暗い。
そろりと寝室に向かうと電気はまだついていて部屋にピアノの音がなっていた。
CDの音だが、この弾き方…。
「終わったのか?」
「あ?え、と…まだ、だけど…キリいいとこでやめてきた。これ…」
「知ってるか?桐生 佐和子」
明羅はこくりと頷いた。
「ショパンコンクールの前にレッスン受けた」
やっぱり…。
「レッスンっていうより精神的に安定をくれた人だった」
明羅はベッドに横になっている怜の傍に腰掛けた。
聞きなれた音。この音は明羅に安心をくれる。でも怜の音のように焦燥感とかざわめきとか刺激はない。
「…感謝してるんだ」
怜が呟いた。
CDの音だけどやはり弾き方は母のものだと明羅は耳を向ける。
「怜さんはCD出さないの?俺、欲しい」
「……生音じゃないと意味なくないか?」
「そうだけど!分かってるけど…でもCDでもいいから聞きたい時だってあるのに…」
「…お前はもういいだろ?いつでも聴けるだろうが」
「う……」
そう言われると明羅は思わず黙ってしまう。
「今はいいけど……家帰って聴きたい時は…?」
怜も黙った。
そう。今はいい。
思いがけずこんな同居、いや居候になって転がり込んだ明羅に怜は惜しげもなく音を聞かせてくれる。
でも所詮まやかしだろう。
日常に戻った時、明羅は今までの日常に戻れるだろうか?
怜の音が溢れる日常から音がなくなる日常へ。
無理だ。
明羅は泣きたくなった。
「どうして、くれるの…?」
耐えられそうにないかもしれない…。
明羅の心にぐるぐるとした熱い感情が渦巻く。
「どう……って責任をとるか?」
明羅の言いたい事が分かったのか怜が茶化して言った。
「あ!携帯に撮っていい?」
「………外に流さないならな」
「流すわけないでしょ!ここでの怜さんは俺だけのものだ」
独占欲丸出しで言った言葉だが、おかしい。
「……それ告白?」
「違うっ!」
やっぱり、そう聞こえるだろう。明羅は顔を真っ赤にした。
「分かってるって」
怜はくすくす笑った。
「寝る」
明羅はベッドに上がって怜の隣に横になった。
「なんだ?そんな端じゃなくていいだろう。落ちるぞ?」
「落ちません」
「恋人同士なんだ。照れるな」
「い、いつからそんなものになったんですかっ!!」
「さっき告白されたから」
「………最低。やっぱり告られれば誰でもいいんだ?」
怜の腕が明羅の身体を抱き寄せた。
「それは冗談だが…ちょっとこうしてろ」
明羅は背中から怜に抱きすくめられていた。
「人恋しいらしい。甘えさせろ」
「………どうしたの…?」
「何でもない。たださっき親父から電話があったんだ…それだけだ」
怜の声が本当に沈んでいたのに気付いた。
冗談めかしていたのも何かあったから、なのだろうか?
明羅は気になったがまさかそれを聞く事は出来なかった。
明羅なんてまだ苗字も言っていないのだ。
ただ黙って怜のいいようにさせていた。
「なんだ?やめろっていわないのか?」
「ん…別にいいよ」
怜さんだったらいい。
「だって俺ここでなんの役にも立ってないし…。こんなんでいいなら…いくらでも」
「…そうか?じゃあ毎晩お願いしようか。お前抱き心地いいから」
だからそれもおかしいと思うけど…。
でも言わない。
なんでもいいから怜の役にたてるなら嬉しいと思ってしまう。
なんでなんだろう?
明羅の中で多分二階堂 怜というだけでもう無条件でなんでも許せてしまうのかもしれない。
別に男同士だしおかしくないよな?
いや、男同士でおかしいともとれるけど。
とにかく明羅の中でもう二階堂 怜はどれもが特別なのは確実だ。
音も日常も。
人の気配があるのが嫌だったはずなのに怜の姿が見えないと不安になる。
それはここがきっと怜の家で自分の家じゃないからだ。
明羅は自分でそう納得させた。
「電気は…?」
明羅が声をかけると怜はリモコンで電気を消した。
それでもやっぱり怜の腕は明羅の身体に巻きついて、明羅も妙に安心して目を閉じた。