ライオン
「どこいこうか?」
「どこ…」
声を穂波さんにかけられても獅王は答えようがない。
「どこか店にでも行く?それとも…俺の部屋でもいい?」
「あ…の…部屋…いい?」
いきなりお部屋訪問でもいいのか?
「いいよ。簡単でいいなら何か夕食も作るよ。獅王くんは遅くなっても平気?」
「全然!うち放任なんで」
獅王くんときた!
「獅王くんでいいのかな…?皆はレオって呼んでるみたいけど…」
「いいです!…レオはね…この外見だし。家族も皆レオって呼ぶんだけど…穂波さんに呼んでもらえるなら名前がいい」
正直に獅王が言うと穂波さんがうっすらと笑みを浮べた。
スーツ姿にコートを羽織っている。格好だけ見れば立派なサラリーマンだ。
「穂波さん寒くない?」
風が少し強くて冷たい。小さくて華奢な穂波さんを気遣うと平気という声が返ってきた。
そういえば名前教えてもらっていない。もう一度聞いてもいいのだろうか?それに年も。全然穂波さんの事を知らないからなんでも知りたいと思ってしまうけどそれはちょっと図々しいだろうか…?
どうにも緊張してどきどきと心臓が高鳴って動揺が激しい気がする。言動におかしい所はないだろうか…?
「名前ね…」
並んで駅に向かいながら穂波さんが口を開いた。獅王よりも頭半分位穂波さんは小さい。
「雪に兎で〝ゆきと〟なんだけど…」
「……え!?」
雪兎?
「キミはライオンの王で…。…なんかね…食べられてしまいそうだろう?」
か、かわいい…とか言ったら面白くないだろうか?
「穂波 雪兎さん?」
「そう。ちょっとね…名前恥ずかしいから」
「そんな事ない…。似合ってる、と思う」
夜目にも白い肌に赤い口元が妖しく獅王を誘っているように見えてくる。
「そうかな…?」
獅王の右側に立った雪兎さんの左目の目元の黒子がちょうど目に入って、食べられてしまいそうなんて言った雪兎さんの言葉に発情しそうになってくる。
食べたい。
……いやいや、そうじゃなくて、と獅王は小さく頭を横に振った。
どうも雪兎さんは思っていた印象と違うらしい。けれどそこが面白いと思ってしまう。
可愛い、綺麗と思うのが変わらないのは外見だけ見ていたからで、内面も落ち着いたおとなしい人だと思っていたのにどうも違うらしい。
むしろ積極的だ。
派手な外見で散々遊んでいるように見られる自分も見た目と違うと言われる事も多く、雪兎さんもそう見られがちなのだろうと一人で納得してしまう。
それにしても雪兎という名前を恥ずかしいなんて言う所なんかは可愛すぎるとやっぱり思ってしまう。
「あの…部屋に…本当に行っていいんですか?」
「いいよ。落ち着いてゆっくり話ししたいし。全然キミの事分からないから。……嫌?」
「まさか!」
いきなりお部屋訪問にはドキドキしてしまう。
「さっき獅王くんは家って言ってたけど…自宅通学?」
「そうです。あの雪兎さんは?アパート?一人暮らし?」
「一応マンション。一人暮らしだから気兼ねなんかいらないよ?」
聞けば電車の駅は獅王の一つ前で近いのに驚いた。
「雪兎さん…」
電車は結構混んでいてこっち、と獅王はそっと雪兎の肩に手を触れドアの傍に立たせ自分は雪兎さんを守るような感じで立った。
自分がそうしたかったからそうしただけだったんだけど…。
「…ありがとう」
小さく雪兎さんが笑みを浮べながら礼を言ってきて獅王の中がざわりと色めき立ってしまう。
…なんでこう色気あるんだろう。やばいなぁ…なんて思ってしまってそっと雪兎さんから視線を逸らせた。
そんなにがっついていない方だと思っていたのにどうにも雪兎さん相手だと本能のままに突き動かされてしまいそうになってくるような気がする。
わりと自分は淡白な方だと思っていたのに…。
それ以前にそういえば自分から付き合ってなんて言ったことがなかったな、と思い当たる。
高校の時も女子からの告白に興味もあっていいか、なんて気軽に受けてたけど…。大学に入ってからは全部断っていた。どうしても雪兎さんの事が浮かんでいたから…。
まさか本当に付き合えるなんて思ってもみなかったんだけど、現実だよな?と逸らした視線を雪兎さんにもう一度向けると雪兎さんがじっと獅王を上目遣いで見ていて視線が絡まった。
どきりと心臓が跳ね上がりこくりと生唾を呑み込んでしまう。
付き合うって…言ってくれたんだから、恋人ってこの人から言ってくれたのだから抱きしめてもいいのだろうか…?
電車がますます混んできて人に押し詰められるようになってきたのを幸いに震えそうな手で獅王は雪兎さんの薄い背に手を回した。
すると雪兎さんは何も言わず顔を俯け目を伏せながら獅王の胸にそっと顔を埋めてきてさらに獅王の心臓が跳ね上がった。
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