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太陽と月の欠片 原因1

side 悠



 驚いた。
 よりによって永瀬 大海(ひろうみ)が同じ高校でしかも同じクラスなんて。
 しかも自分を知っていた。
 悠(ゆう)は爪を噛んだ。
 誰も知り合いのいないところとわざわざ離れた学校にしたのに。
 去年の夏。
 忘れない。
 県大会で永瀬のいる一条中に負けた。
 中学生とは思えない180センチ越した身長から繰り出されるスパイクに手も足も出なかった。
 永瀬位の選手ならバレーの強豪校から特待の誘いはあったはずだ。
 それなのに公立のここ?
 しかもここは進学校でバレーはそんなに強くもないはず。
 なぜこんな所に?
 身体はさらにひと回り大きくなったようだ。きっとさらに鋭いスパイクを打つのだろう。

 でも永瀬が余計な追求など悠に向かって口にしなかったのにほっと安堵した。
 しかし煩わしい事は免れないだろう。
 ……もうバレーなど出来ないのに。
 なんで今、永瀬 大海が悠の目の前にいるんだ。
 悠は唇をかんだ。
 せめてあと一年早かったら…。
 席に座ったまま悠は顔を俯けた。

 
 「なぁ、家遠いだろ?何分かかるんだ?」
 「…電車一本で40分弱で着く。あとは歩きの分」
 休み時間の度に永瀬は悠に話しかけに来た。
 「永瀬、知り合い?」
 教室の窓際の方から永瀬に声がかかる。
 「ああ、ちょっとな」
 始まったばかりのクラスはグループが出来ていた。大体始めは同じ中学出身でつるんでいるのが普通だろう。
 家が近いといった永瀬はきっと何人も知り合いがいるはず。
 それなのに永瀬は悠にばかり話しかけていた。
 しかもバレーに関係ない事ばかり。
 バレーをしないと言った悠に気を遣っているのだろうか?
 別に話くらいなら構わない。
 一緒にやろう、と言われたら困るけれど、今の所永瀬は一言もそんな事は言わない。
 …もっとも自分なんか元々誘う気なんてないのかもしれないが。
 自意識過剰だったかと悠は苦笑が漏れた。
 「…永瀬はバレー部入るんだろう?」
 「…入るよ」
 「同中の奴、誰かいるのか?」
 「リベロやってた奴位かな」
 「ああ」
 悠は県の優秀選手にも選ばれたリベロの顔を思い出した。
 「……永瀬にリベロの…吉村っていったか?がいればいい所までいくかな」
 「………バレーの話、嫌じゃない、のか?」
 「別に、嫌な訳じゃない」
 「なんだ。よかった」
 ほっとしたように永瀬が笑った。
 「でも杉浦はもうバレーしない?」
 「しない」
 正確にはできない、なのだが。
 そこまで言う必要はない。
 「永瀬、俺はしない。だから…」
 「だから、別にバレーしないからってつるむのには関係ないだろ」
 「…そう、だけど」
 永瀬がいると身体がでかいから目立つ。
 悠は目立ちたくないのだが…。
 

 それからも永瀬はクラスにいる時はほとんど悠の傍にいるようになった。
 すっかりクラス内でも永瀬と悠は仲のいい友達扱いになっていた。
 何日か経っても永瀬は余計な事も言わないし、それなら別にいいかと悠も諦めた。
 そして名前でバレー部から声がかかるかもと身構えていたがそれもなくて、つくづく自分が過敏になりすぎていたと悠はほっとした。

 授業が終われば永瀬は部活に行き、悠は帰る。
 部活見に来いよ、も永瀬は言わなかった。
 気を遣っているのか別に悠の事など気にもならないのか。
 永瀬が何を考えて悠の傍にいるのか分からないが今の所は何の問題もなかった。
 まだバレーを見に行く勇気は出ない。
 見たらしたくなる。
 永瀬 大海がいるのに。
 悠は体育館の脇を通って帰路につく。
 ボールの跳ねる音がする。
 掛け声が聞こえる。
 ずっと小学校の時から聞きなれた音。
 悠はその音に惑わされることなく前を向き、バレーになど興味ないといわんばかりに無表情で足を出した。
 永瀬はいったい何のつもりなのだろう。
 出来ないと思えばこそしたくなる。
 やって出来なくもない。
 でもそれでは永瀬の足を引っ張るのは分かりきっている事だ。
 使い物にならない自分。
 どうせ使えないなら全部使えなくなれば諦めもつくのに、中途半端すぎる。
 なぜ、自分が…。
 こんな事になってしまったのか…。
 考えても仕方のない事。
 電車の駅に向かって悠は歩いていった。
 
 
  
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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