「な、聞いていいか?杉浦…眼鏡、度入ってない…?」
「入ってない」
大海が小さな声で聞いてみるとあっさり杉浦は頷いた。
杉浦の顔の表情はいつも変わらない。
綺麗な顔が眼鏡と前髪で隠れているのはやっぱりもったいないと思うけど。
「…俺ちょっと職員室行ってくる」
杉浦の手にはプリントが握られていた。
「分からねぇとこでもあったのか?」
「…いや、違う。ちょっと…」
杉浦が立ち上がってさっさと行ってしまった。
「なんだ?杉浦に振られたのかぁ?」
同中の加藤だ。
「なんか職員室行くって」
「杉浦となんの知り合い?」
「ん~…ちょっと」
大海は笑ってごまかした。
杉浦はバレーが嫌なわけではないけれど、拒絶しているのに余計な事は言わない方が賢明だろう。
中学の時の県大会の時と表情が違いすぎる。
それが気になって気になって仕方ない。
県の優秀選手で選ばれたセッターだったのに。
県だけじゃない。絶対全国クラスなはず。
でも残念ながら杉浦のチームのアタッカーがヘボすぎた。
だから大海の方が勝利を手に出来たのだ。
大海の脳裏に強烈な記憶が残っている。
反った背中からバックトス。
見事な弧を描く。
速攻も正確なトス。
なのに決まらない。
一人だけが突出しててもバレーはチーム戦で決定力に欠ければ負けてしまう。
あの速攻のトスも、オープンに上げられたトスも全部自分が打ってみたかった。
決める自信があった。
相手チームのセッターじゃ仕方ない事だけど。
それが目の前にいるのに、バレーをしないという。
はぁ、と大海は大きく溜息を吐き出した。
もったいない。
でも焦っちゃだめだ。
「どしたの?」
加藤が大海を不思議そうに見ていた。
「あ?いいや~、別に」
大海は教室に戻ってきた杉浦に視線を向ける。
身長は変わってない位だ。
体つきも。
細いって言っていいくらいだ。
「………大海?」
「ん?」
「杉浦、気になるの?」
加藤がにやにやしてる。
「お前背でかいし、バレーでももうスタメン入り確実なんだろ?女にもて放題なのになんで杉浦?」
「は?」
大海は目を丸くした。
「だっていつもじ~っと杉浦ばっか見てんじゃん」
「ばっ、ちげ~って。理由があんだよ」
「なんだ。女怖ぇから男に行くのかと思った。それにしたってもっと可愛いのにいくよな」
「いかねぇっつうの」
杉浦は綺麗な顔してる、とは教えなくてもいい事だ。
中学校の時はあんなに杉浦は周りに騒がれた位なのに今はクラスの女子も全然杉浦を見ていない。
まぁ、見た目の印象が確かに違いすぎるけど…。
知ってるのが自分だけというのは何となく面白い。
「いいよ~。俺、偏見ないから」
「ありえねぇって」
加藤がふざけてるのに腹に拳を入れてやる。
「じゃな」
授業が終わって帰り支度をしてる杉浦に大海が声をかけた。
「ああ。明日」
「おう」
クラスにバレー部は大海一人だった。
練習見に来ないか、と何度も誘おうとしたけれど拒絶されたら元も子もないので言っていない。
いつも喉元まで出掛かるんだけど杉浦の拒絶が見える。
「大海!」
大海のクラスのドアから吉村が顔を出してきた。
「部活行こうぜ」
「おう。じゃ」
杉浦に手を振って荷物を肩に担いだ。
「…最近あいつとよくつるんでるな?」
廊下を体育館に向かって移動しながら吉村が言った。
教室移動の時とかも大海が杉浦にくっ付いている状態なのでどこかで見たらしい。
「まぁな」
「あいつの名前は?」
「……杉浦」
吉村も絶対杉浦を覚えているはずだ。
「杉浦……?」
吉村が首を捻っている。多分どこかで引っかかっているんだろう。
でも教えてやらない。
しかし気付かれてしまった。
次の日吉村が口を開いてきた。
「あれ、北中の杉浦 悠?」
ちっと大海は舌打ちしそうになった。
「……なんで誘わないの?アイツいたら全国いけるかも!」
「………バレーはやめたって」
「はぁ!?まじで?でもさ~」
「口出すなよ?俺もだから今必死に仲良くなって理由聞き出そうとしてるんだから。しょうもない理由だったら引きずり込む気でいるから」
「了解っ!」
吉村が嬉々とした声で答えた。
「うわ~~~!杉浦、入って欲しい……」
去年県大終わった後大海達の学校でも皆杉浦を絶賛していた。早々に負けたのに杉浦は県の優秀セッターに選ばれた位じゃ誰でも別格だと思ったのだろう。
それなのにバレーをやめた。
理由はなんだろうか…。
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