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ライオンとウサギ 30

ウサギ

 どうにか重い体ながらも仕事を終えて今日は早々にマンションに帰った。
 ドアを開けて部屋の気配を確かめる。
 …獅王の存在は感じない…。
 けれど昨夜の事を思い出せばソファに座っている所や寝室に行けばベッドでの獅王を思い出してしまって顔が熱くなってきそうになる。

 汚れたシーツは洗ったのに今朝獅王の腕の中で目覚めたそのままになっているから…そんな事を思い出してしまうんだ。
 やっぱり獅王は部屋に入れないほうがいい。
 そうじゃないと一人が寂しく感じてしまう。
 自分から昨日は何を思ったか連れてきてしまったけれど…。きっと浮かれていたのだと思う。獅王みたいなもててカッコイイ子がまさか本当に自分なんかと、と疑っていたというのもあったはず。

 外で会ってたらもっと信じられなかったはずだ。でも…今日もお昼も一緒に向かい合って食べた。しかも雪兎のここ最近のお気に入りの定食屋だ。
 お洒落なフレンチレストランとかが似合いそうな獅王が普通においしいと顔を綻ばせたのが可愛いな、と思った。それに交換しましょうなんてちょっとずつお互いのを突いたり。

 なんか緊張もしないで素でいられている事に気づいた。
 最初からどうせ獅王にはイメージと違ったとか言われるものだと思って自分を隠す気などなかったから…。
 いつもだったら上辺だけ取り繕って適当に付き合って飽きられたら別れようと言われるのが常だったから。

 ここ最近は付き合うといってもほとんど寝るのが目的で付き合うような感じだったから今日みたいなのは新鮮だった。
 スーツを脱いで部屋着に着替え、ゆっくりと風呂に浸かりたいなと風呂場に行ってみたらちゃんと風呂まで洗ってあって雪兎は少し考え込んだ。
 どう考えても獅王が朝に洗っていってくれたのだと思う。

 「…気が利くヤツだな」
 ぼそりと呟いて微かに笑みを漏らしそのまま風呂の給湯ボタンを押す。
 昨夜目が覚めた時そういえば風呂に入れられてたんだと思い出すと顔が火照ってきそうになる。今までそんな事された事などなかった。
 風呂が出来上がる間に簡単に夕飯を済まそうと冷蔵庫を覗くとあいにくと買い物もしてこなかったのでろくなものがない。

 「明日買い物に行かないと…」
 ずっと外食ばかりでは金が嵩むので朝は基本食べないで出勤してしまう事が多いのだがなるべく夜は自炊を心がけていた。
 ずっと母親と二人暮らしだったので自炊も慣れているので苦ではない。

 冷凍うどんをみつけたのでうどんとご飯でいいや、と簡単に晩飯を済ませ、そのまま風呂に入るとほっと息を吐き出した。
 重くてぎしぎしといっていた体が解れて行く様だ。
 「…あっ」

 身体中に残っているキスマークにかっと顔が熱くなった。そして獅王にされたことを思い出すと体が疼きそうになる。
 あんなに感じて腰振って…もっとと貪欲に自分からねだった事を思い出せば、年下の未成年相手に何してるのだろうとがっくりきてしまう。
 7つも下なのに。
 でも体格的にも顔の作り的にも大人びて大きい獅王はそんなに下に見えない。

 「…そういう問題じゃないな…」
 でも久しぶりのセックスでかなり満足したのも確かだ。
 風呂を上がったら電話をしてみようか…。
 いつも獅王からばかりアプローチされて、電話までも彼にばかりかけさせたら悪いだろう。
 好きという言葉は言えない。言えないけれど、自分から別れるという事も多分ない。

 今の所獅王は雪兎にかなり好印象だし、なんといってもカッコイイ。
 性格が少々難でもプラマイゼロになっていい位なのに彼はマメだしよく動くらしい。
 洗濯物もだるい体の雪兎の変わりにしてくれたし、洗い物なんかもやってくれるし、かなりいいヤツかも。
 見た目は生活感などなさそうなのに。
 むしろ椅子の踏ん反り返って王冠でも被って威張りちらすイメージなのに実際の彼は甲斐甲斐しい。

 「…やっぱり入れないほうがいい…な」
 昭和の定食屋にも笑顔で付き合ってくれ、雪兎の不遜な言い方にも怒ることもない。
 そんな彼が居ついたらあっという間にこの部屋は獅王で染まってしまいそうだ。そんな事になったら…。
 小さく雪兎は頭を横に振った。

 たった昨夜から今朝にかけていただけなのにすでに頭の中は獅王の事で埋まっているのだから、これ以上になったらきっと寂しくて耐えられなくなるだろう。
 「やっぱ…外」
 一人で雪兎は頷いた。
 
 
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