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2012.10.30(火)
度の入ってない眼鏡。
わざと隠しているだろう自分。
一体どうしたんだろう。
大海は気になってもそれはまだ口に出来ないでいた。
進学校のバレー部でそんなに強くもなくて、はっきり言って部活はぬるかった。
セッターも普通。
杉浦みたいなセンスはない。
あの気持ちいい見惚れるトスが見たい。
はぁ、と大海は何度も溜息が漏れてしまう。
なんか全然部活に身が入らなくて、大海は困ってしまう。
「……どうかしたのか?」
休み時間に杉浦の横ではぁ、はぁ、と溜息ばっかりついてたらさすがに杉浦に不審がられた。
「あ、わり…。いや……部活がぬるい、なぁ…と」
「……ココ進学校で強豪でもないから。永瀬だったら他の所に行くべきだったと思うけど?」
「……今更だ」
杉浦が肩を竦ませた。
「…スタメン入り?」
「多分」
「…だろうね」
杉浦は顔をまっすぐ向けない。いつも視線は外している。
下を向いている事が多いと思う。
「そういや進路希望の紙書いたか?高校入ったばっかりでもう進路?って感じだけど」
話題を変えるつもりで大海は話を振った。
「…俺は決めてるから、書いた」
杉浦の言葉に驚いた。
「え!?まじで?…すげぇな。何?聞いてもいいのか?」
「……別にいいけど。専門。スポーツトレーナーとか、整体、指圧、鍼とかそこらへん」
「………へぇ」
正直大海は驚いた。高校入ったばっかりで先を決めてるなんてほんの一握りしかいないだろう。
「……俺、何も考えてない…」
「……バレーで考えたら?全日本とか」
「え~~?」
「……いけると思うけど……。ここの学校じゃ無理、か…?」
ん~~~、と大海も苦笑した。
「杉浦は俺がいける、と思うんだ?」
「思う」
即座に答える杉浦にふぅん、と大海は鼻を鳴らした。
…顔が思わず弛んでくる。
高校になってから大海のバレーしている所を見た事がないのに、中学の時のしか知らないはずなのに杉浦は迷いなく頷くのだ。
認めてくれていた、という事なのだろう。
「…お前のトス打ちてぇ、な……」
思わず呟いたら杉浦がびしっと固まった。
「あ、わり…気にしなくていいからっ」
杉原から拒絶オーラが出てる。
「………俺はバレー、しない」
杉浦の固い声。
「ん…。……杉浦、にだって…事情があるだろうから……無理にっては勿論、思ってないし……」
妙に焦った。
そして俯いた杉浦の顔が泣きそうに歪んでいた。
「……杉浦?悪い……もう、言わねぇ、から…」
罪悪感を感じる。
杉浦の事情なんてこれっぽっちも知らないけど杉浦がバレーが嫌でやめたんじゃない事は分かっていた。
それなのに、思わず出てしまった言葉。
「別に、構わない…」
歪んだ顔は一瞬だけだった。顔を上げた時は元に戻っている。
杉浦から事情を言ってくれる日は来るのだろうか?
もう大海は自分から問いかける事は出来なさそうだと思う。
一瞬の歪んだ杉浦の顔が忘れられない。
杉浦も本当はしたい…?
でも、出来ない…?
しない、じゃなくて出来ない、なのか?
だけど、体育だって普通にしてるし、全部普通に見える。
何が…?
身長のわりに細い薄い肩が震えているように見えた。
それからも特別杉浦の態度は変わらず、いつ不用意な言葉を吐いてしまうだろうかと思って大海もバレーの話題は避けた。
クラスにバレー部の奴がいなくて助かったと思う。
「なぁ、そういや杉浦、携帯の番号教えて」
「え?ああ……言うからかけてよこして」
休み時間に杉浦に言ってみれば普通に杉浦が番号を教えてくれたのにほっとした。
拒絶されるかと思って少しどきどきしてしまった。
「メアドは?」
それも澱みなく杉浦が口で言ってくる。
「じゃ、メールに番号入れておく」
大海は嬉々として早速メールに自分の番号を入れて送信した。
「ああ」
よっしゃ!と思わず心の中で喜んでいた。
トス打ちてぇ、なんて言ってしまったのに杉浦は気にしていないかのような態度だった。
でも杉浦からもバレーの話題、部活の話題も振ってこないという事は杉浦だって気にしているという事だ。
考えなしで思った事をそのまま口にしてしまった自分の口が恨めしい。