家に着いて玄関に入った所で怜さんの電話が鳴った。
「もしもし」
ちらっと怜さんが明羅の方を視線で確認するとそのまま寝室の方に逃げるように行ってしまう。
…誰からの電話?
だいたい怜さんの携帯に電話がかかってくるのは生方さんとかピアノ関係が主でいつも普通に明羅がいてもそのまま話すのに…。
だからといって追いかけてまでいきはしないけど!
なんか知らないけど…明羅には聞かれたくないって事だ。
本当は問い正したい。けれど明羅にだってプライドがある。そんなみっともないこと…。
少しして怜さんがリビングに戻って来た。明羅は一つも気になるとこなんてないよ、と言わんばかりに見栄を張って面白くないテレビをつけて見ている振りをしていた。
気にしていないなら普通に誰から?と聞けるのに変に意識してしまってそう口にも出来ない。
……面白くない。
むっとした顔でテレビを見ていると怜さんがどうした?といつもと変わらない顔で聞いて来た。
「別になんでもないです。…テレビも面白くないからちょっとあっちに行って来る。短いCM曲の依頼あったし」
「そうか?」
このままじゃ怜さんを問い詰めちゃうそうで明羅は逃げた。
「じゃ晩飯できたら呼ぶ」
「………ん」
ふいと明羅は怜さんの視線から目を逸らしそそくさとパソコン部屋に逃げ込む。
こんな状態で曲なんて作れるはずない。いつも頭の中で早く出してくれと溢れ出す音なのに…今日は一つも鳴らない。
さっき頭を撫でてくれた時のふんわりした気持ちはあっという間にしぼんでしまった。しぼんだばかりか…自分の心の中に暗い影が覆っていくようだ。心も頭も…。
ほんの些細な事なのに。聞けばなんでもない事かもしれないのに。
ちょっといつもと違う怜さんを見せられるだけでこんなに怖い。
…出かける時怜さんが文句を言うのを明羅はいつも怒ったようにしているが実は違う。それが明羅にとってはほっとする瞬間だ。何も出来ない明羅をまだ怜さんは必要としてくれる、大事だと思ってくれていると思えるから。
怜さんは家事だって一人で全部出来るし、ピアノだって明羅がいなくとも弾ける。明羅は違う。怜さんは天才なんて言うけれど、今だってほら!怜さんがちょっと遠く感じただけでもう明羅の中に音は鳴らないんだ。こんなに明羅は空っぽになってしまうんだ。
「…怜さんのバカ」
その時明羅の携帯が鳴った。表示は怜さんのお父さんの携帯だ。
「もしもし?」
『明羅くん?今どこに?』
「今?…怜さんちだけど…」
『……怜は?』
「いるけど?」
『じゃ…見間違えか…?いや、私は出張に行く所だったのだが…さっき怜が女性といた所を見かけて…』
ひくっと明羅は息を飲み込んだ。
「…なっ!…そ、それ…み、間違い…じゃ?」
『…怜もずっと明羅くんと一緒だったのならそうだな…あ、出張で明羅くんの誕生日にはこっちにいられないのだよ…先に言葉だけ送っておくよ?ちょっと早いけど誕生日おめでとう。プレゼントは出張から帰って来てから一緒に買い物に行こうか』
「べ、別に…いいよ…いっつも貰ってばっかり…だし…」
『それはそれだろう?じゃあ帰って来てからの楽しみにしているよ』
気をつけても何も言えないまま電話は切れてしまった。
…嘘…。
まさか、という全部打ち消していた事を突き詰められたようで明羅は浅く呼吸を繰り返した。顔色は真っ青になっているのかもしれない。
女性といる所を見たって…。
「きっと…見間違い。ううん。前も勝手に誤解した事あったし!」
でも…明羅が出かけるといって嬉々として怜さんが出て行った。大体打ち合わせでも何でも怜さんが喜んで外に出て行くという事はほとんどないのに…。
まさか…と明羅は首を横に振った。
「おおい?明羅くーん?晩飯…あれ?どうした?」
パソコンの前に座るでもなくただ呆然と立ち尽くしていた明羅にドアを開けて顔を覗かせた怜さんが眉を顰めた。
「な、何…?」
慌てて明羅は顔を取り繕おうとしたけれどうまくはいってないはずで、怜さんはますます眉間の皺を深くする。
「明羅?なんだ?どうした?」
「だから!何が!?」
声を大きく張り上げてしまった。
「あ…ごめ…なさい…」
「なんだ?…お前調子悪いんじゃないのか?今日は籠もるのはやめとけ」
怜さんが明羅の肩を抱き寄せようとしたのを明羅は身を捩って避けた。
「明羅?」
「な、なんでもないってば!大丈夫!」
誤魔化すように明羅は笑ったつもりだが間違いなく失敗していたはずだ。
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