怜さんは今日は出かけないと言った。
…正直よかったとほっとした。今日も明羅を放って出かけるなんて言われたら…。
どうしても怜さんの顔色を窺う様になってしまう。
でも怜さんはいたっていつもと同じような感じで明羅の誤解か?と思ってしまう。
…いや、だってお父さんも…見たって…。
明羅は怜さん以外を好きになった事はないから…というか怜さんしか興味が向かないというか…とにかく、二階堂 怜は明羅にとっては唯一の特別な人だ。
でも怜さんは…明羅の事をそういった意味の相手じゃなくともいいのだと思う。…本当は。だって女の人と普通に付き合ってたらしいし。来るもの拒まずって言ってたし…。
飽きた…のだろうか?やっぱり女の人の方がよくなったとか…?
面倒になったとか…?
…怖くて聞くのも無理そう…。だってそうだ、なんて頷かれたら…。
だから聞かない。聞かなければこのまま傍にいられる…?
すっかり後ろ向きな考えに本当に自分は成長していないと思う。そうすればますます怜さんは明羅の事を面倒だと思うかもしれない。
負のスパイラルからどうにも抜け出せる気配がしない。
一緒に住んでいるのだって怜さんにとってはリスクじゃないのか?本当は世界中回ってリサイタルをしてもいいピアニストなのに一緒に住んでるのが男でしかも親が親だから中途半端に名前だけは知られてるし…。
…それはもう今更の事だけど…。
明羅は別にいい。だって明羅にとっては怜さん以外はどうでもいいんだから。
はぁと小さく溜息を吐き出しながらダイニングに腰掛けると怜さんがきキッチンから大丈夫か?と声をかけてくれる。
「…別に…平気…」
こんな返事可愛くない。怜さんが心配して声をかけてくれてるのに…。そう思ってもうまく感情がコントロール出来ない。
そそくさとご飯を食べて寝てるね、と逃げるように寝室に戻り布団を被った。
怜さんがいなければ明羅は何もないし何も出来ない。全部が怜さんの負担になっている。
それなのにどうして怜さんは傍に置いてくれるのだろう?
首にぶら下がっている指輪に手を触れぎゅっと掴む。
ほんのちょっとした事でもこんな風になってしまう自分が嫌いだ。
さっき怜さんが触れてもいいかと聞いて来たのだって昨日の自分の態度が原因だと分かっている。避けるようにしてしまったし、夜寝る時も怜さんから離れたから…。でも、そう聞かれて確かめられたのも悲しい。
「…女々しい奴…」
言いたい事も言えないのに一人でぐじぐじしているんだから…。
でも分かっていても怖いんだ!
怜さんからなんでもない、大丈夫と言ってくれればいいのに…怜さんは言ってくれる気はないらいい。
隠したいから…?
穿った考えにしかならない自分にまた嫌になってくる。
明後日は明羅の誕生日なのに…。
いつも一人だった誕生日は怜さんのおかげで一人じゃなくなった。楽しみにしてたのに直前にこんな気持ちになるなんて…。
昨日までは全然普通だったのに、ほんのちょっとの事がこんなに苦しく感じてしまう。
「…怜さん」
「呼んだか?」
丁度明羅が声を出して怜さんの名前を呼んでしまった所に怜さんがひょっこりとドアから顔を覗かせ、そして明羅の横になっているベッドに近づいてきた。
「本当に風邪じゃないな?喉も痛くないか?」
「……ないよ」
「それならいいが…。じゃあさっさと寝て復活しろ?」
寝たら寝不足は復活するかもしれないけど気持ちまでは難しいと思う。
「明羅?何か言いたい事でもあるのか?」
怜さんがベッドの端に腰掛けながら明羅の髪を撫でてくれる。怜さんが気にしてくれるのが嬉しいのに喉に骨がひっかかったみたいに心がもどかしく苛立つ。
誰かにもこんな事…してない?
そんな事を確かめたくなってしまって。
…結局そんな事明羅が問えるはずもなく明羅はただ首を小さく横に振った。
「……眠れるようについててやろうか?それともピアノ弾いてた方いいか?」
ここにいて、と明羅は甘えるように手をそっと出して怜さんの服を掴んだ。
怜さんは目を一瞬見開いたけどすぐに目元を柔らめて明羅の手を握ってくれ、さらにもう片方の手で明羅の髪を撫でながら額にキスしてくれる。
「じゃついててやるから眠って」
低い怜さんの声に誘導されるように瞼が重くなってくる。
「…ばかだな」
小さくそんな怜さんの低い声が聞こえてきた時には明羅の意識はすっかり沈んでしまった。
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