怜さんの車に乗って高速に乗ったと思ったら明羅はすぐに瞼が重くなって眠ってしまった。怜さんが運転してるのにまさか乗っているだけの明羅が寝るなんて、と思ったけれど、寝不足の体は車の揺れに抵抗する事は出来なかった。
「明羅」
怜さんに呼ばれて目が覚めてみたら見知らぬ所に車が泊まっていた。
「ここ…どこ…?」
きょろりと車の窓から周囲を見渡すが全然分からない。
木々が生い茂った所に高級そうな日本家屋がある。立派な構えは…旅館?
「今日は一泊な?」
「え!?だって…何も…」
言われてなかったから用意もしてないし!
…と思ったら怜さんがトランクから荷物を取り出して得意そうににっと八重歯を見せた。
どうやら明羅の知らない間に用意はされていたらしい。
…という事は…?
「チェックインの時間まではまだあるからお土産屋とか覗いて軽く何か食べようか。ちょっと待ってろ」
「う…うん…」
怜さんが荷物を持って旅館に入って行った。
何?どういう事?腕時計を見て見れば午後1時を過ぎた所だった。どうやら車の中で結構寝ていたらしく昨夜の寝不足は解消されてはいたけど…。
ほどなくして怜さんが荷物を置いて戻ってきてそのまま旅館の中ではなく旅館の駐車場であろう所から外に出て行き、明羅もわけも分からないままついていった。
「寒くないか?」
「…うん」
出掛けに寒くないように手袋持ってのマフラー持っての言われたけどこういう事か。
…今日は3日。明日は明羅の誕生日の4日。…もしかしてそういう事?
でもじゃあ女の人と会ってたというのは…?それはまだ謎が解けたわけじゃない。なんとなく怜さんが今朝上機嫌だったのはここに来る予定だったから?
いつこんな事…?
何を考えていいのやら明羅の頭はくるくる回っている。
旅館は坂の上の方にあったらしく、坂を下っていくと温泉街でお土産屋さんが並び、温泉饅頭やら色々な物が売っていて人の平日なのにそれなりに人の通りが多い。
なんとなく釈然としないまま怜さんと一緒に買い物したり、食べ物を摘んだり怜さんに流されるまま時間を過ごし、そして旅館に戻ろうかと怜さんに声をかけられれば明羅は頷くしかない。
「お前温泉は?」
「…初めて」
並んで歩く怜さんがにっと明羅の顔を見て笑みを浮べた。
「だと思った!」
こくんと明羅は息を飲み込んだ。
「あの…怜さん…」
今なら聞いてもいい…?
どうしたってこれは明羅の誕生日の為で明羅を驚かそうとして連れて来てくれたんだと分かる。
自分が自分の事しか考えてなくてぐるぐるしてたのに…怜さんは明羅の事を考えてくれてた?
「部屋に行ってからな…」
がしっと怜さんが明羅の頭を抱えるようにして抱き寄せた。
外なのに!周りにも人がいっぱいいるのに!それでも怜さんは気にしないらしくよしよしと明羅の頭を撫でながら旅館までの坂を登っていった。
そして立派な旅館に着き、さらに案内された部屋に明羅はあんぐりしてしまう。
一軒家のような離れで庭にはテレビでしか見た事のないししおどしがカポンと音を鳴らしている。部屋の中にある風呂とそして庭を見なが入れる小さな露天風呂が部屋に常備されてた。勿論周囲からは勿論見えないように竹で仕切られている。
風情ある日本の風景と言わんばかりの光景に明羅はへぇ…と魅入った。
自分の家は洋風だったし、怜さんちも純和風とはいえない作りで、だからこそこんな落ち着いた雰囲気がとても新鮮に感じる。
露天風呂からの湯気に気持ち良さそう…とも思っちゃうけど、ここに怜さんと二人で泊まるって事!?と動揺もしてしまう。
「いいだろう?」
「……うん」
仲居さんがいなくなると怜さんが明羅の体をよいしょ、と言いながら膝に抱えた。
「さて明羅くん?全部吐こうか?」
「…え?」
目の前で怜さんがにっと笑っている。
「あ、の…?」
「何か面白くないか不安か…俺は知らんが抱えていただろう?いつ明羅から言ってくれるのかと思って待っていたが…結局言わなかったのな?」
「れ、い…さん…?」
全部…気付いてた…?
「明羅から聞いてくれたならちゃんと答えようと思ってたのに。とうとう口にしなかった…」
怜さんが自嘲するかのような笑みを浮べる。
「俺が信用ないのか…」
「そうじゃない!」
明羅は頭を横に振りながら怜さんに抱きついた。
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