「だって!…怜さん…嬉しそうに出てくし…電話…隠れるし……お父さん見たって言うし…俺…こわか、った…」
眠れないほど鬱屈していた思いが溢れてみっともなく涙が零れてしまう。
「ああ?何?…何言ってるか分からん。ちゃんと説明しろ?」
怜さんが首を捻っている。
明羅はぐずぐずしながら順に説明していく。すると怜さんの顔が段々と呆れたような顔になっていった。
「…やっぱり信用してないって事なんだな…」
「違う…俺が怖いだけ…」
「それになんだ?その親父が見たって言うのは?女性といる所?誰とも会っちゃないが?…ちょっとお前電話してみろ?」
「でも…出張って…」
「変な疑いかけられてるんだ。そんなの気にするな」
ほら、と怜さんが明羅のポケットから携帯を取り出して渡された。
いいのかな…と思いつつお父さんのプライヴェート携帯に電話するが、その間も怜さんは明羅を離さなくて怜さんの腕にしっかりと体は向かい合わせで抱きかかえられている。
『もしもし?どうかしたかね?』
あの、と声を出そうとしたら怜さんに携帯を取り上げられた。
「どういう事だよ?女と会ってたなんて何明羅に吹き込んでんだ!?」
怜さんの口調が喧嘩腰だ。
『ん?旅行会社で女性店員と会っていただろう?』
「………」
びしっと怜さんの額に怒りマークが間違いなく浮かんでいる。
「あ、の…おとうさん…?」
怜さんに電話を戻されて恐々と明羅は電話を受け取りお父さんに声をかけた。
女性と会ってた……って…。
『私は出張で明羅くんに会えも出来ないのに…ちょっとは刺激になったかね?別に私は嘘は言ってないぞ?言葉を少し端折っただけだ』
「…ざけんじゃねぇ」
地の底から這うような声ってこんな声?と言わんばかりの怜さんの声にびくっとなってしまう。
『たったあれ位の事で明羅くんが不安になるなら怜はまだまだ信用なってないって事だな』
「あ、の!そうじゃなく…」
ぶちっと怜さんが容赦なく電話を切ってしまった。
「明羅くん?」
「………はい」
小さくなって明羅は体を縮こませた。怜さんの顔が見られないけど、間違いなく怜さんの顔はにこやかだが大きな怒りマークが浮かんでいるはずだ。
「…ごめ…なさい…」
全部どうやら明羅が悪いらしいという事はよく分かった。
「…さ、風呂行くよ?」
「え?」
怜さんがそう言ってぽいぽいと明羅の服を脱がせていき、自分も脱ぎ出す。
「あの!俺後で…」
まだ夕方にもなってないのに!
「ダメに決まってるでしょ?」
決まってる…って…。
「昨日も一昨日も俺は明羅に避けられて」
「だ、って!」
怜さんが言ってくれないから…でも明羅からも聞けなかったんだ。
怜さんは聞く耳持たないらしく明羅を抱えるようにしてガラス戸の外で湯煙をたてる四角の檜で出来ているのだろう露天風呂に向かった。
そのまま明羅の事は抱いたままだ。
恥ずかしいけど…でも誰も見ているわけでもない。いいか…と諦める。
それにやっぱりロケーションがいいし。日常とは違う時間の流れの様に感じてしまう。
それに怜さんの事…やっぱり誤解で…そこは申し訳ないけど。
「勘弁してくれ…ホント。俺何しちゃったかなと…明羅は全然分かってない」
「だ、って…女の人と…って聞いて…」
「だからどうしてあんなクソ親父の言う事真に受けるかね?万が一そうだとしてもどうして俺には何も言わない?…信用されてないからだろうけど」
「そうじゃないってば…そうじゃ…」
二人で湯船に入っても余裕のほどよい大きさの露天風呂で自分から明羅は怜さんに抱きついた。
「怜さんは…俺いなくてもピアニストだし、家事だってなんでもできるし。俺なんもできない」
「…あのね…明羅?」
「分かってる!俺全然成長してない!でもきっと…また同じ事繰り返しちゃうかも…。だってそれ位…自分に自信がないんだ。…お父さんに怜さんが女の人と一緒にいたって聞いて…それだけで、俺はもう…音が消えてしまうんだ!…全部なくなって…」
「ばかだね。俺が明羅を手放すなんてないのに。お前が俺で音が鳴るなら俺の音はお前が作ってるのに。言っただろう?10年コンサートに来ていた子供の存在がなかったらピアニストの二階堂 怜はいなかった。今もだ。明羅がいるから…お前に捨てられないように弾いてるだけだと言うのに。何回も確認させないと明羅は忘れてしまうらしいな」
「…うん…」
きっとそうだ。
「…頷くのかよ?」
「うん…何度も…言って…ほしい…俺…すぐ忘れるから」
「そうだな…。何度でも分からせてやるよ?」
ぷっと怜さんが笑っている。
明羅も泣き笑いのような顔になって濡れた怜さんの髪をかき上げながら頬を包み自分からキスを求めた。
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