※ こちらは「月・雪・花」のSSです。お読みになってからお進み下さい(><)
季節感ゼロの夏のお話になってます^^;すみません(笑)
「千聖、今日夏祭りがあるんですけど行かない?」
「行かない」
すげなく即、却下されてしまう。
パソコン前でカタカタと指を動かしながら彰吾の方など目もくれず一瞬にしてデートの誘いは袖にされてしまった。
「やだよ。絶対に」
絶対なんて言葉までついてきて彰吾は残念と溜息を吐き出した。
「結構大きな祭りで…山の方から大きな花火も上がるんですけど…」
「い・や」
青みがかったブルーライトカットグラスをつけて淡々とキーボードを打ちながら仕事してる千聖は言葉を区切るようにして言い切った。
「…彰吾と二人きりというなら行ってもいい。でもそうじゃないだろう?ここは田舎だし、それこそ住人のほとんどが来るんじゃないのか?」
「まぁそんな感じですね。俺はここ何年かは設営の手伝いの方ばかりやってたんですけど、今年は断ったので」
千聖が顔をあげて彰吾をじろりと睨んだ。
そしてもう一度「い・や・だ」と繰り返す。
「二度も言わなくとも…」
「絶対に嫌だぞ。…だいたいそんな所に行ったら彰吾に女が群がってくるだろうが。同級生だの先輩だの後輩だのって」
「…あ~…まぁ、…ですね。確かに」
そしてその後千聖を紹介しろと女共に言われるだろう事を思えば確かに行かない方が無難かと彰吾も頷いた。
「じゃあガゼボで飲みながら花火を見るのは?」
「それは勿論!断るはずないだろ!」
千聖はガゼボがいたくお気に入りでたまにノートパソコンを持ってガゼボに行く時もある位だ。
大概そういう時は気分転換も兼ねているらしいが。
「花火…見えるのか?」
「見えますよ。ここのお屋敷は高台にありますからね。ばっちりです。結構盛大な花火なんですよ?」
「そうなのか?…楽しみだ」
さっきはいやだなんて言ったのに…。本当にただ単に色々と声をかけられるのが嫌なだけか。
何しろ田舎なもので近所は皆顔見知り、へたをすればよその家の親戚関係まで把握しているツワモノのおばちゃんも多いのだ。
ここで育った彰吾には普通でも千聖には信じられない世界だろう。
「千聖、折角だから浴衣着ません?」
「浴衣?着た事ないな…。彰吾も着る?」
「千聖が着るなら」
千聖なら落ち着いた色の女性用の浴衣も似合いそうだ、なんて言ったらきっと怒り出すだろうけど…。
「いいな!浴衣で花火!」
「蚊取り線香も炊かないとね。蚊に刺されちゃう」
くくくっと千聖が楽しそうにして笑い出した。どうやら彰吾の企画は気に入ってくれたらしい。
「それならやはり飲むのはポン酒か?」
「…いえ、別にそこは何でもいいと思いますけど?」
「かーっとビールもいいな…」
彰吾も飲むのは好きなのだが千聖も酒好きだ。しかも二人共結構な酒豪で…おかげで酒の消費量が半端ない。
なにしろ千聖が喜んでくれるのであればなんでもいい。
「でも浴衣なんて持ってないし着方も知らないぞ?」
「俺持ってますし着せてあげます。自己流で適当ですけど、別に誰に見せるわけでもないからいいでしょう?」
「全然いい!…それにしても彰吾は何でも出来るし何でも知ってるな…」
「別にそんな事は…浴衣なんてこっちは田舎だから夏祭りといえば浴衣、ってお義母さんが作ってくれて。まさか着ないのも悪いし」
「なるほど」
「あっちの家に置きっぱになってるから持ってこないと。荷物がまた増えちゃいますけど…いい?」
「いいに決まってる!彰吾のものは全部持って来い。部屋はいくらでも余ってるし!あっちに帰るなんて言い出さないようにしないと」
「…言いませんけどね」
そんな事言う千聖が本当に可愛い。
「俺の居場所はもう千聖の傍ですから」
「……ならいっけど…」
照れたように顔を赤らめる千聖がまた可愛らしくて撫でくり回したくなってくる。
「ここにいると本当に季節の移り変わりってのがよく分かる。花火大会だってあっちでだってあるけど、なんていうか、景色とマッチしてるというか…桜とかも。山がピンクに染まるとか…見てて飽きないな」
「…よかったです」
ウェブ上での仕事の千聖は下手をすれば家からほとんど出る事なく過ごしてしまう為、事あるごとに彰吾が外へ連れ出すようにしているのだが自然が近い田舎を千聖は満喫しているらしい様子に彰吾も嬉しく思う。
「一番は彰吾がいてくれるから…だけど」
そんな事を言い出す千聖に彰吾は顔を顰めた。
「…それは…こんな昼間から俺を誘ってるんですか?」
「ちがう!」
別にそれならそれでここには千聖と彰吾しかいないからいいのだが…。千聖は仕事しないと、とまたパソコンに向かってしまう。
「夜、な」
「…ええ」
仄かに耳をピンク色にしながら誘いの言葉を口にする千聖にくすりと彰吾も笑って頷いた。
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