浴衣を実家から取ってきた。
義母に言って、もう彰吾では幾分行き丈が小さくなった高校生位の時の浴衣も千聖用に貰っていく事にする。
ちょっと柄が若い気もするが、千聖ならばいいだろうし、彰吾しか見ないのだからどうでもいい事だ。
とにかく雰囲気を味わえればそれでいい。
彰吾が実家の部屋で使っていた豚の形の蚊取り線香を入れる容器と蚊取り線香も持っていく。
「彰吾っ!マジでこんなの今もあるの!?」
持ってきた豚の蚊取り線香に千聖は大ウケで興奮だ。
「普通にありますけど?売ってるし」
「すげぇ!いい!」
おなかを抱えて笑っている千聖はかなり満足らしい。
「今なんかおしゃれにラベンダーの香りの蚊取り線香もありますけど?」
「まじめに!?」
「ええ」
すげぇと涙を浮かべんばかりで喜んでいた。
「写真!撮ろう!」
可愛い!とか言いながら千聖が蚊取り線香に火を入れあちこち持って歩いてはデジカメに収めている。なかなかかなり気に入ったようだ。
「古きよき日本って感じだ」
「まぁ…昭和…ですね」
「いいよ!どこかに素材で使えるかも!他にももしかして彰吾んちって色々あったりするのかな?」
「あるんじゃないですか?物置の奥の方とかね…そういえば蓄音機を見たような…」
「はぁ?ホントか!?」
「ひいじいさん代とかからここに住んでいますからね」
「へぇ~~~~!」
千聖にはとても新鮮な話らしく食いつきがいい。
「多分動きはしないんでしょうけどね」
「……彰吾んちでお宝発見隊をしてみたい」
「ウチはそんな金持ちの家でもないからお宝なんてないですよ」
ぷっと彰吾は吹き出してしまう。
「なぁ、花火って何時から?」
「夜八時かな…。それまでにご飯も片付けも終わらせましょう」
「だな!」
千聖のテンションが上がってきたらしい。浴衣とか蚊取り線香とか、小物で結構左右されるのだとは知らなかった。
いや、庭にいいなというだけでガゼボを設置するような人だ。ロマンチストで演出家でもあるのかもしれない。
小道具がどうやら相当気に入ったらしく豚の蚊取り線香を眺めては口元を緩めてるそんな千聖の方が彰吾は可愛いのだが…。
なにしろその蚊取り線香など彰吾にとっては見慣れたものでしかないのだ。
「…いいなぁ…楽しい」
「千聖、浴衣も着なきゃないですからね」
「あ!そっか」
今日はお祭りで家政婦のおばちゃんも祭りの手伝いに行くと言うので休みだ。休みの時の家事の担当は彰吾。千聖も少しは手伝ってくれるけれど、基本千聖はあまり何もしない。
なにしろ千聖はお坊ちゃまだったらしいのでそれも分かる。
エアコン完備で夏なのに閉め切った家とか田舎では考えられないが千聖にはそれが通常なのだろう。
親切な家政婦のおばちゃんは彰吾が焼くだけとか煮るだけとか調理しやすいように下準備までしていってくれているのでそれを調理し、いつもよりも少し早い夕ご飯にした。
夏だがすでに夏至は過ぎ日が暮れるのは早くなっていて食べ終わった頃にはもうすっかり夜になっている。
千聖と並んで食器の後片付けも済ませ着替える事にして二階に向かった。
千聖の家に彰吾が転がり込んでから寝室はずっと一緒。たまに千聖はパソコン部屋のソファで寝落ちしてしまう事もあるけれど、それは最近は本当に切羽詰った時のみになっていて、今はよろよろしつつもベッドに戻ってくる。彰吾の温かい腕が目当てなのか、いつも潜り込んでくると彰吾の腕の下にもぞもぞと寝ぼけながらも入ってくるのが可愛くて愛しくてどうしようもなくなるのだが果たして千聖は気付いているのだろうか?
「彰吾!浴衣の下には下着つけないってホント?お前も?」
「まさか!」
ぷっと彰吾は笑った。
「なんだ…」
つまらないと千聖が口を尖らせながら自分の着ていたTシャツを脱ぎ始める。さらにジーンズも。…そしてパンツまで。
「…千聖…?」
こくりと彰吾は喉を鳴らした。
「別に誰に会うでもないし?」
勿論彰吾的には大歓迎だ。
外にあまり出ない千聖は日焼けもしておらず、綺麗な均整のとれた白い肢体を惜しげもなく彰吾の目の前に晒し、そして彰吾を誘うようにちろりと赤い舌を覗かせている。
このまま後ろのベッドにダイブしたいところだがそこはぐっと抑え、持ってきた浴衣を千聖に着せた。
まったく…魔性というのはこの人の事だろうな、と溜息をつきたくなる。 いや、勿論いいんだけど!
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