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キリ番リク② 彰吾×千聖3

 彰吾に浴衣を着せてもらい、ちょっと、いや、かなり千聖のテンションがあがってくる。
 夕方彰吾が浴衣を取りに戻ったときに一人で窓から外を眺めていたら、祭りだからなのだろう、浴衣を着た家族連れや女の子達がちらほらと歩いているのが見えた。

 小さい頃から千聖は浴衣など着せてもらった記憶もないし、祭りに連れて行ってもらったこともない千聖には彰吾のしてくれることがいちいち新鮮だ。
 本当は祭りに誘われたのだって嬉しいのだが、彰吾に群がってくる女が絶対いるだろう事が分かってて行くなんて事などしない。誰も寄ってこないなら行ってもいいのだが…。

 ハンターの目の女にわざわざ浴衣を着てさらに男ぶりのあがった彰吾を見せたらどうなるか…。
 彰吾の事を信じていないわけじゃないけど煩わしい事になるのは見なくとも明らかだ。

 千聖に浴衣を着せ終わると彰吾は自分も浴衣を着始めた。千聖はあえて下着は脱いだのに彰吾はお堅く着用するらしい。…そんな所も彰吾だな、と千聖はにやにやしながら彰吾の着替えをじっと眺めた。
 綺麗に筋肉がついた男らしい体だ。筋張った腕もかっこいい。最近はネットでの仕事の受注も多いが、それでも造園の手伝いに行ったりもしているし筋肉は落ちてもおらず、日焼けもしていて白くて華奢な千聖の体とは大分違う。
 肩も張り、腰はきゅっと締まって、その腰に巻かれた帯がたまらない。

 「……千聖…見すぎですけど…」
 涎を垂らしそうな位にガン見していた千聖に彰吾が仄かに顔を赤らめていた。
 「いや、かっこいいなぁ…と思って」
 「…………どうも」
 照れる彰吾が可愛い。

 「浴衣…いいな?」
 「それはよかった」
 着るのが慣れた様子の彰吾はカッコイイ。自分の姿はイマイチなような気はするが、まぁそこは雰囲気だからいいだろう。
 「千聖も似合ってます。素敵だ」
 かぁっと千聖は顔が熱くなってくる。なんでコイツは真面目な顔でこんな事が言えるのか…。

 「そ、それにしても…彰吾の浴衣なら俺には大きいはずなのに…そんなでもないな?」
 彰吾サイズの浴衣なら袖も長いだろうし丈も長いだろうに、千聖に合わせた様にぴったりだ。
 「ああ、それは俺がまだ中学とか高校の頃のですから。お義母さんが綺麗にとっておいてくれたので」
 「あ、そう…。俺は彰吾が中高の頃のサイズなわけね?」
 くくっと彰吾が笑っている。
 「柄もちょっと若いですけど、千聖に似合ってるしいいでしょう」

 確かに濃紺地に格子状の柄が全体的に入っていてちょっと派手な感じで、彰吾のはかすりというやつか?落ち着いた大人用のという感じだ。
 落ち着きがない千聖には少々子供用なのがお似合いだと言いたいのだろうか?
 そのまま階下に下り、酒の準備をしてやはり彰吾の持ってきた草履を履き外に出た。彰吾の手には豚の蚊取り線香もある。
 外にはソーラーの仄かに光る足元灯が光り、夜空には星が輝いている。雲もないようで絶好の花火日和だろう。

 千聖の心がまるで子供のようにわくわくしている。
 「彰吾っ」
 酒と蚊取り線香を持つ彰吾の腕に勢いよく抱きつくが彰吾はふらりともしない。
 「どうしました?」
 そう言いながらも彰吾の顔も笑みを作っている。
 「いいな!」
 「ですね。花火見ながらガゼボで一杯なんてすごい贅沢だ」

 「春は桜で夏は花火、秋は月に冬は雪だな」
 「さすがに雪見ながらは寒くて無理ですが」
 「雪に埋もれるガゼボをリビングから見ながら、だな」
 「…千聖が嬉しそうでよかった」
 「勿論!…でも…こうして彰吾がいつでも隣にいてくれるからだ。…まさか…こんな風になれるなんて…本当に思ってもなかった…」

 未だに本当に彰吾の相手が千聖でいいのだろうかと思う事もあるが…千聖にこんなわくわくや幸せを与えてくれるのは彰吾しかいないのだ。離してなどやるもんか、とぎゅっと彰吾を掴む手に力を加えれば彰吾は察したのか両手が塞がっているのに千聖の頭にキスする。
 「………なんだよ?」
 「いえ?可愛いな、と思っただけです」

 …だからどうして彰吾はこういう事を平然と出来るのか。彰吾を相手に駆け引きだのなんだのそういう事は通じなくて…、そこは彰吾が本当に本心からそう思ってくれているからなのだろう。
 どうしても自分を取り繕ってしまいたくなる千聖とは根本的に性格の作りが違うのだ。
 


 
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