はのんのBL部屋

※　こちらは「トロイメライ」のSSです。お読みになってからお進み下さい(><)


　「凪？毎日チョコの試食で飽きません？」
　「いや？全然？そりゃ毎日チョコだけど同じじゃないし」
　それは勿論チョコケーキだったりトリュフだったりと内容は違えどチョコ味に変わりはないと作っている絋士の方が思ってしまうのだが、試食してくれている凪は相変わらずおいしそうにそれらを口に運んでいる。

　凪と一緒に引越し、本格的に住む様になってから数ヶ月。凪の元々の家を出、絋士もスィーツのコーディネーターとしての仕事をはじめ順調に仕事も軌道に乗っていた。
　今までプロデュースした店ではバレンタイン企画で今はまさにかき入れ時。凪も幸い今はコンサートもなく休養期間で毎日ピアノは弾いてはいるがのんびりしていた。

　忙しいのはチョコのレシピを作らなくてはいけない絋士の方だ。
　いつものように凪に試食を頼むが本当にチョコばかりで絋士の方が作るのにも飽きそうな感じなのに試食に付き合ってくれる凪は毎日チョコでもへっちゃららしい。
　実家のケーキ屋でもバレンタイン時期はかなり店の者も試食には飽き飽きしてくるのだったが…。

　今など店用どころか、それは一店舗だけでなくレストランのデザートまでの分もあって毎日試作の連続なのに凪は飽きもせずにおいしそうに食べている。
　本当に絋士には出来すぎな位の甘党な恋人だ。
　それに味覚も視覚も凪の言う事は的確でそれがどうして料理には無頓着なのかが物凄く謎だ。
　防音もほどこされた広めのマンションはキッチンも広めだ。

　一室は凪のピアノの部屋。二人の寝室。書斎部屋は共用で楽譜や料理の本が溢れている。それにリビングにダイニングキッチン。
　明るい間取りとしっかりした防音でピアノの音も生活音も気にならず過ごせる所を見つけられたのは凪の実父であろう立花氏からの紹介だった。
　これ以上ない条件でしかも格安にまでしてもらったのは感謝する。
　たまに遊びにくるのはいただけないが…そこは仕方ないだろう。

　実はその立花氏も凪と同じ甘党で、それはもう絋士のお菓子も目当ての中に入る事になってしまったのは失敗だった。
　いやどこか常識からずれたほのぼの親子でケーキを頬張る姿はどうにも可愛いと言っていいのか悪いのか。凪だけだったら勿論可愛いだけなのだが！
　そんなこんなで順風満帆な凪との生活だ。

　「でもよくこんだけ食べてて太らないね…パティシエのパートナーの理想だ…」
　コンサート前は食事を受け付けなくなるほどの極度の神経症と言っていい位だった凪は今はそんな事はない。とはいってもやはり絋士の作ったもの以外はあまり食べたがらないので凪のスケジュールと自分のスケジュールを管理するのも絋士の役目だ。

　凪のコンサートのスケジュールは年単位で決まっているしそこは全然楽な事だ。
　凪もまた絋士が忙しいだろう季節の変わり目前やクリスマス、バレンタイン前にはコンサートは入れていない。
　絋士から何か言ったわけでもないのだが…凪は何も言わずにそういう事をしてくれる。
　友達もいない、人付き合いもほとんどないと言いながらそんな細やかな気遣いの出来る凪の為に料理もデザートも気は抜かない。

　がりがりだった凪だが食生活が充実してもあまり変わりはないようで、どこにカロリーが消費されているのかが謎だ。顔色はよくなったし見た目で健康的になったのは分かるが細さは相変わらず。
　かえって絋士の地元で言われていた王子様度が上がったような気がするのは気のせいじゃないはず。
　「三塚、コレ…おいしい」
　今日の試食の一つのチョコケーキに凪は満足そうな顔だ。

　「それ…？よかった！凪の及第点が出ればほぼOKですからね」
　「…そう？でも本当に全部おいしいんだけど…」
　本当に！絋士にとっては凪様様という感じだ。
　「凪は？バレンタインデーには何が欲しい？ケーキ？チョコ？勿論凪だけのために作りますよ？」
　「やっぱり…ケーキかなぁ…。でもチョコも…三塚の作るチョコはバレンタインデーだけだろうし…うーん…」
　本気で悩んでる凪に笑ってしまう。

　「いつも…食べたくとも買えなくて我慢してたんだけどな…。だって男でバレンタインデーにチョコ買うって変だろう？」
　「まぁ…最近はスィーツ男子も増えてるようですけど…勇気はいるでしょうね」
　「うん。だから…すごく嬉しい」
　ぱっと華やかに無邪気に笑みを浮べる凪にケーキとチョコを両方だな、と思ったのは絋士としては当然だろう。
　


　
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