「いってらっしゃい」
「じゃあ行ってきます。今日は一応夕方には終わらせて帰ってきますね」
「うん。分かった」
いよいよバレンタインデー当日だ。
ほとんどは昨日までが売る側は本番だろう。今日は駆け込み需要位で。
なので三塚は統計と確認等の仕事で早めに帰ってくるらしい。
よし!気合入れないと!と凪はリビングで三塚にもらったクマを抱きながら三塚が戻ってこない事を確かめ、そして少ししてからよし!と動き出した。
失敗するかもしれないし、三塚が早くに帰ってくるかもしれないし、で早めに行動に移すことにする。
「クマは見ちゃダメ」
でかクマは三塚の代わりだから背中を向けさせてキッチンの方は見えないようにしてそして買っておいた箱を出して来て箱の裏に書かれている説明を眺めた。
「湯せん…」
よく三塚もしてる。…のは見てるけど。
レンジでもいいって書かれている。…レンジの方いい?
粉をふるう?それも三塚がしてるけど…道具ってどこだ?
泡だて器、最後はレンジじゃなくてオーブンで焼く…。
「……大丈夫か…?」
箱に書かれている説明は分かる。三塚がやってる所を見てるし、分かる。
でも…説明どおりにして最後まで行き着けるまでが物凄く遠いように思えてしまうのは気のせいだろうか…?
これで誰でも簡単に?
不安がよぎるがするしかないだろう。
とりあえず箱の中以外にも卵とかバターとかもいるらしいが、それはいつでも常備してあるので大丈夫。
無塩バターもお菓子用なのだろうが勿論三塚が使うので冷蔵庫に入っていた。
「よし」
気合をいれて始めたのはいいけれど…。
粉が飛び散る。
湯せんはお湯が入っちゃだめと書かれていて気を張ってしまう。
変に力が入ってなかなか進まない。慣れないから段取りも勿論よくないんだろうけど…。
簡単って書いてあるのに凪にとっては全然簡単じゃない!
…一体三塚は普段どうやってあんな綺麗なケーキを作っているのだろう?
「っと!」
考え込んでる時間はない!
どうにかこうにか作って、オーブンで焼いてみる。
オーブンって書いてあったからこれでいいんだよな???と何をするにも不安だ。
簡単と書いてあったのに思ったより時間が経っていて、やっと出来上がりを取り出して試しに一個食べてみる。
……全然中がとろりとしてないけど?
箱に書いてあるのと違う!
これは凪のおやつ用。味はさすがにマズイってほどじゃないのは救いだ。
そりゃ量が規定の量が入ってるからだろうけど…。
周囲と自分の姿にはたと見てみれば自分は粉に塗れ、床には卵を落としたり、チョコが飛び散ったりとなんか…三塚が綺麗に使ってるキッチンが物凄いことになってるんですけど…?
作るより片付けも考えないと…とあちこち考えれば集中も切れるわけで。
……泣きたくなってくる。
余計な事を考えてしまったからか、二箱目はチョコを半分位零してしまった。
勿体無いからそれはそのまま置いとく事にして、三箱目。
しまった…もっと勝っておけばよかった!まさかこんなに失敗するなんて。
これじゃ三塚が凪に包丁持つなと言うのも頷ける。包丁も持ってないのにキッチンは大惨事な事になっているのだ。
あ、洗い物しないと使えないか…。
材料とか器具は三塚がちゃんと揃えてるから揃ってるのに、使える人がいないとこんな事になってしまうのか…。
今考えれば母親も料理しない人で凪もそれで育ったからなんとも思っていなかったけれど、凪はしなくて正解なのかもしれない。そしていつも簡単にお菓子や料理を作ってしまう三塚はすごいって事だけはよくわかった。
いつもおいしい!と食べさせてもらっているけれど感謝が全然足りていない気がする。
「あ、…」
また余計な事考えてると失敗しちゃうから!
くじけそうになりながら半泣きが入った状態で洗い物をしてもう一度挑戦を始める。
時間も過ぎていくばかりだし箱ももう一個だけだし、とにかくやるしかない。
顔を触ればチョコがついている。頭を振れば粉が落ちてくる。
シンクの回りも汚い。
「…怒られるかな…」
普通に掃除機やなんかはできるのにどうしてこんな事になってしまうのか。
もう一度ちゃんと説明を見ながら手順を頭に入れて挑戦する。
湯せんして、お湯を入れないように気をつけて。卵かきまぜて、オーブンを温めて。
さっきは8~10分って書かれてた説明に10分にしちゃって生地が全部固まっちゃったから今度は8分で。
…簡単って書かれてたのに難しい!
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