ちょっと早めに終わったけど丁度よかった。
絋士の手には小さなホールのチョコケーキと生チョコにトリュフもある。
とりあえずケーキ以外はすぐに食べなくてもいいし。
毎日チョコの試食に付き合ってくれていた凪には珍しいものでもないだろうけど今日はバレンタインだから特別だ。
凪はきっといつものようにおいしそうに食べてくれるはず。
マンションに帰って来てインターホンを鳴らそうかと思ったがまた寝てたら起こしてしまうな、とキーで玄関を開けて帰った。
「ただいま」
あ!という凪の声と続けてがちゃがちゃんという音が響いてきてどうしたのかと思って絋士は怪訝にしながらも声の聞こえたリビングに向かった。
「………凪……?」
凪がいたのはリビングではなくてキッチンだった。
「あっつっ!」
「凪!?」
キッチンやリビングにチョコの匂いが漂っている。
「どうした!?火傷!?」
慌てて凪の大事な手を水に晒した。
「……おかえり…」
小さい小さい凪の声。
「…一体どうしたんです?」
キッチンが凄まじいことになっていた。
泥棒が入ったのか?いや、台風でもきたのだろうか?
凪自身も粉が髪にまでついてるし、顔にはチョコがついてるし。
ちらと状況を見てみればオーブンから出したばかりというお菓子がある。
これで火傷か?
凪の指を見てみれば少々赤くなっているだけで水ぶくれも出来ていないしどうやら大丈夫らしいが。
市販の手作りキットの箱に、中途半端なチョコは何か間違えたのか?
どうやらフォンダンショコラを作っていたらしいというのは分かったが…。
「…キッチン…汚してごめん。ちゃんと片付けるし…。あと材料も、卵とか…使った…」
「いえ?それは全然いいけど…」
これはそういう事で間違いないのだろうか?
緩みそうになる顔を取り繕うのに苦労する。
「手は?大丈夫?」
「平気」
凪が小さい消えそうな声でぼそぼそと話している。
「フォンダンショコラ?出来た?」
「…わかんない。……最初失敗して…チョコがとろんってなんなかった」
「火が強すぎかな」
凪が顔を俯けて小さくなっている。
「…手、もう…」
いい、と凪が手を引っ込めてタオルで拭った後もう一度確かめてみる。
「うん…水ぶくれなってませんね」
よかった、とそこはほっとする。
「…簡単って…書いてたのに…」
どうやら凪には簡単な事じゃなかったらしい。
あまりにも可愛い事やらかしてくれる凪を一体どうしたらいいのだろうか?
「そのボウルに入ったチョコは?」
「…半分零した…」
「凪…チョコついてます」
凪の頬についていたチョコを舐めてやると凪ががばっと抱きついて来た。
「うまくいかなくてっ」
ひくっと声をひくつかせてるのは泣きたい気分だろうか?
「そりゃ初めてでは難しいでしょう」
「だって簡単って書いてた」
よしよしと凪の背中を撫でてやりながら目でオーブンの脇には出来上がったばかりのフォンダンショコラを確かめる。
中途半端なチョコの脇にも食べかけのがあるがどうやらそれは失敗したものらしい。
「……俺に?」
「だって…いっつももらってばっかりだから…もちろん三塚が作ったヤツの方おいしいのは分かってるけど…」
凪の気持ちが嬉しい。
「俺にくれるならなにも凝ったの作らなくとも喜ぶのに」
「…全然凝ってない」
そういう意味じゃなく。
溢したという中途半端なチョコを指で掬い凪の唇に塗る。
「三塚…?」
ぺろ、と舐めようとする凪の舌と一緒にチョコも一緒に舐め凪の舌と絡める。
「んっ」
「うん…おいしい。ね?凪」
「それは…まぁ…うん…」
凪が恥かしそうにしながら顔を俯けるとその凪の首筋にもチョコがついている。
「凪…ここにもついてるけど?」
凪の首元に唇を寄せて舐め取る。
「ひゃ!…そんなとこにも?」
「うん。手も」
火傷してないほうの手も掴めばチョコだらけで爪にまで入っている。
凪の指を口に含み指を舐めると凪が真っ赤な顔で絋士を見上げている。
「みつづ、か…」
「…ここに出てる半分のチョコもらっても?」
「それは…うん…。でも三塚が作ってくれたほうがおいしいし…」
「俺が作ったのは勿論凪用にあります。でもここのは凪が俺に…でしょう?」
「そう…だけど…結局…汚しただけ…」
「そんな事ないです。これでデコレイトしても?」
「デコレイト?何に?」
半分残っていたチョコを指差せば凪が不思議そうな顔で、絋士はその凪を見てにこりと笑みを浮べた。
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