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ライオンとウサギ 31

ライオン

 どうしよう…?もう雪兎さん帰ってきたよね?電話してもいいかな?メールで電話してもいい?って聞いた方がいいのかな…?

 一人で獅王は悶々と携帯を眺めていた。
 時計を見て携帯を見て、を繰り返す。
 まさか雪兎さんからかけてきてくれるって事はないだろうから…と思っていたらその雪兎さんから電話がかかってきた。
 「もしもし!」
 声が弾んでしまった。

 『……獅王?』
 「はいっ!あ、の…何か?」
 『……何かなきゃ電話しちゃいけなかったか?』
 「いえ!そんな事ないです!」
 雪兎さんからかけてきてくれるなんて、と獅王は一人で自分のベッドで跳ねたくなる。

 『今日の…獅王の友達…?林とかいう…』
 「え?ああそうです。高校の時からよくツルんでるんです」
 『仲いいんだな…いいけど…なんか…』
 雪兎さんが少しばかり逡巡した声を出している。
 「ああ…雪兎さんの事言ってるんで知ってます」
 『知って…!?』
 雪兎さんが息を飲み込むのが分かった。

 「うん…言っちゃだめだった…?片想い中からぐちぐち言ってたから…嬉しくて…あ、でもえっちしたのまでは言ってないですよ?さすがに」
 『っ!』
 ああ…きっと今雪兎さんは真っ赤になってるのかもしれない…。顔が見たかったと残念な思いが過ぎる。
 『かた…思い…?』
 「そう…。大学入ってすぐ…図書館に初めて行った時から…最初はなんでこんなに気になるのか分からなくてかなり葛藤したんですけど」
 正直に自分の気持ちをバラす。こんな時は照れくさいから電話の方が都合がいい。

 「林は人に吹聴するヤツじゃないし、詮索もして来ないから大丈夫です」
 『……それ、なら…いい…けど』
 歯切れが悪いのは信用していないのだろうか…?
 『あと…名前で驚いてたようだけど…?』
 「ああ…それはね。俺ね…小さい頃からレオって呼ばれてたんで。家族も皆そうなんですよ。呼ばれるのって学校で出席確認する時位?だから個人的に獅王って呼んでくれるの雪兎さんだけ」

 『………え?』
 また雪兎さんが言葉を止めている。
 「それ位特別って事なんだけど…?好きな人にはやっぱりちゃんと名前で呼んで欲しいかな…って。本当は自分の名前好きじゃないんですけどね。だっていかにもでしょう?恥ずかしいっちゅうの」
 くすくすと雪兎さんが電話口で笑いを漏らした。
 『恥ずかしいんだ…?似合ってるのに?』

 「いやですよぉ。でもね…雪兎さんが呼んでくれるのは好きだなぁ…」
 それは本当に本心だ。今まで誰にも呼ばれたくなくていたのに雪兎さんから呼ばれるのはすごくいいと思える。
 『気持ちは分からないでもないけどね。俺もユキウサギだし?小さい頃は散々馬鹿にされてきたから。おまけに小さい頃俺はどうしたって女の子みたいだったしね。体も小さくて』
 「あ~…可愛かったでしょうねぇ…。絶対に」
 『ウサギちゃんだよ、あだ名は』

 分かる!
 獅王は黙って一人で頷いた。
 「今度ウサ耳つけます?」
 『………切るぞ』
 「ああ~!嘘です!」
 いえ、満更嘘でもないんだけど…とは言えない。

 『獅王はライオンだからまだいいだろう?』
 「ええ~?そうですか?でももし雪兎さんに獅王だったら変ですよ?反対に俺に雪兎だったらね…事故でしょ?」
 くっと雪兎さんが声を出して笑い出した。
 ああ、残念だなぁ…笑い顔が見たい。
 『…雪兎はね…母が好きでつけたんだ。つけられた俺は迷惑だよ』

 ひとしきり笑ってから笑いを止めた雪兎さんが静かな口調でそう言った。あまりにもしんみりした口調に獅王はどう聞いていいのか分からなくなる。その気配を取ったのか雪兎さんが続きを口にした。
 『ああ…母はね亡くなってる。気にしなくていいけど…?俺が高校の頃の事だから…そうだ…もう10年近くになる…』

 ……抱きしめたい。
 今、雪兎さんはどんな表情をしているのだろう?
 「雪兎さん?今から行っていい?」
 『どうして?』
 「抱きしめたい」
 『…平気だと言ってるだろう?』
 「雪兎さんが平気でも俺は平気じゃないんだけど…」

 『……今日はいい。あと電話終わったらすぐ寝るんだ』
 むつっとした言い方の雪兎さんにがっくりしてしまう。
 でも今日は、という事は今度また抱きしめていいって事だろうか?

 「……雪兎さん…好きです」
 言いたくなった。
 『…………ありがとう』
 小さな声で返されてますます雪兎さんを抱きしめたくなる。
 なぜ離れてるんだろう?抱きしめていっぱいキスしたい…。

※坂崎 若様宅で 月星 の続きupしてます^^
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