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ライオンとウサギ 33

ライオン

 一日が長い…。
 みっしりだった授業を終え、バイトに入ったけど時計ばかりを気にしてしまう。
 雪兎さんの仕事が終わるのは何時だろうか?

 まったく…と獅王は自分に苦笑する。
 すっかり雪兎さんに狂ってる。
 昨夜の電話でほんの少し雪兎さんから過去を聞かせられてさらに獅王の中では雪兎さんの存在が大きくなってしまったと思う。

 好きだと言った獅王に対して同じ言葉をまだ返してはもらえないけれど、少しずつ雪兎さんの内側に入れてもらえていると思うのはおこがましいだろうか?
 そんな事ないよな?と自分に問うても誰も答えちゃくれないけど。

 「いらっしゃいませ」
 入ってきたお客さんに声をかけると大学でも見る女子の群れ四人だった。
 結構な図々しい具合で獅王の後ろを追い掛け回しどこまでもついてくるようなストーカー一歩手前な感じだ。
 「お決まりになりましたらお呼びください」
 「レオ、バイトって何時まで?そのあと遊びに行こうよ」
 腕を捕まれぐいぐいと引っ張られる。一人がそうすると残り3人も同じようにそれぞれ触ってくる。

 今までも店の迷惑も顧みず獅王に席に座ってとか、獅王以外の人がテーブルにう付けば大きな声で文句を言い、こっちはお客さんなんだから言う事を聞けといわんばかりの態度だ。
 「バイトとはいえ仕事中ですからお離し下さい」
 獅王が低い声で怒気を含ませた声を出すとふざけただけだってば、と言いながら手を離す。あっさりと離れたが睨むことを忘れず冷めた目で四人を見て踵を返した。

 苛立つ。
 まるで珍獣扱いだ。珍獣ならまだしも、客だと思っていい気になっている。
 「レオ、変わる」
 「悪い」
 同じくシフトに入ってたバイトの他の大学の一つ上の先輩が苦笑しながら言ってくれて獅王はバックヤードに避難した。
 もう何度も来てるからいつもそうやって帰るまではなるべく店内に顔を出さないようにする。

 「あら?どうしたの?」
 バックヤードの片隅で店長が帳簿をつけていた。
 「すみません、また4人組が…」
 「ああ…」
 店長が苦笑を漏らす。

 「あの子達だけはいただけないねぇ…。それ以外はレオくんには大助かりなんだけど」
 「ホントすみません」
 獅王が謝るのもおかしな話だが自分がいるから来るのだろうからと小さく頭を下げた。
 何度注意してもマナーはよくならずいっそ出禁にして欲しい。
 「ちょっと時間早いけど上がりにしようか?お客さんも今日はもうぱらぱらとしか来ないだろうし」

 「あ、…いいですか?すみません」
 「獅王くんのせいじゃないんだけどねぇ」
 ちょうどカフェエプロンを外しはじめたら携帯が震えた。
 雪兎さんからで今そっちに向かっているというメールだった。
 それだけで苛立った心がぱっと浮上する。

 すぐにバイトがちょっと早めに終わったので店の後ろの方で待ってますと返事を返すと店長がにやにやと獅王を見て笑っていた。
 「彼女ぉ?」
 「違います」
 なにしろ彼女じゃないですから。恋人?と聞かれたら勿論と頷いていたはずだが。

 「なんだ違うんだ」
 つまんない、と笑われたのに獅王もにこやかにお疲れ様でした、と返し、店を出たが裏口で雪兎さんを待つ事にする。
 表に回って彼女等に見つかったら面倒だ。
 まだ注文を受けたばかりだから一気飲みでもしないかぎり外には出てこないだろう。
 雪兎さんは足早でこっちに来たのかすぐに姿を見せて、獅王は手を上げると雪兎の腕を掴み、さらに駅へと裏道から向かう。

 「獅王…?」
 「すみません。ちょっと急ぎますね。雪兎さんも知ってるかな…?4人組のうるさい女子」
 「……ああ」
 図書館にも獅王の後ろを追いかけてきて散々注意されている所は獅王も知っている。
 「獅王の追っかけ?」

 「…っていうんじゃ…。芸能人でもないのに迷惑だし。あいつらが店に来てたんで。それで店長にも早くあがっていいよって言われたんです」
 なるほどと雪兎さんが頷きながらも獅王に合わせて早歩きしている。
 「ごめんね?仕事終わって疲れてるだろうに…」
 「別に謝られるほどでもない」
 相変わらず雪兎さんの話し方はちょっとばかりぶっきらぼうだけどでも拒否は感じられない。

 「疲れてるだろうから本当は抱き上げたいんですけど」
 「バカ。そんな事できるはずないだろ」
 「してもいいなら俺はどこででもできるよ?」
 「しなくていい。恥かしくて駅を利用できなくなるだろうが」
 くすっと獅王が笑ってしまう。
 変な獅王の言い分にも雪兎さんは真面目に答えてくれるんだからやっぱり可愛い、と思ってしまう。


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