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ライオンとウサギ 34

ウサギ

 獅王に腕を引っ張られるようにして足早に駅に向かうとちょうどそこに電車が入ってきて駆け込むようにして乗り込んだ。
 「ごめんね!」
 少し息が切れたようにぜいぜいとしてると獅王が寄りかかっていいよ、と雪兎の頭を獅王の肩に押し付けてきた。
 「…平気だ」
 「混んでるから誰も気にしませんって」

 獅王の声が小さく耳に聞こえて少し回りを見てみれば確かに混んでいるし、いいか…と獅王に体を預ける事にした。
 いいか、と思える自分に驚きだけれど、一昨日の初めての時もそうしたし具合悪いふりでもしとけばいいか、とも思ってしまう。
 なにしろ今日は初めて獅王と会ったんだ。

 「雪兎さん…」
 獅王の息が耳にかかる。
 その声が抱きしめたいと言わんばかりに熱を帯びているのが雪兎にも分かった。
 どきりと雪兎の心臓が跳ね、どくどくと脈拍が速くなっていく。
 自分のマンションに獅王を連れていくのに躊躇してやっぱりどこか外でと言おうかと思っていたのに結局連れていかざるをえない状況になってしまった。

 それに…どうして?と聞かれたらどう答えたらいいのか…。
 まさか部屋に入れるのが嫌だ、なんて言ったら傷つくだろうし、嫌なわけではないのだから…。
 ただ先の事を考えて自衛したいだけなんだけど…。
 そう言えばいい…?でも初めの時にも別れる前程?と獅王に言われたし…そんな事を言われるのは面白くはないだろう事も分かる。

 自分だって先にそんな事言われたら分かっていてもむっとするだろう。
 矛盾してる。
 はぁと小さく息を溜息を吐くと獅王が耳に顔を近づけてきた。
 「すみません…疲れさせちゃった」
 「あ、いや…大丈夫」
 獅王の広い胸にこつんと頭を預けた。

 大胆だな、と自分でも思う。もちろん夜なのに電車がぎゅうぎゅう気味に混んでるから出来る事だけど。空いてたらさすがにそんな事できない。
 「雪兎さん」
 はぁ、と耳にあたる獅王の息遣いが熱くて雪兎も身体が疼いてきそうだ。
 どくどくと獅王の心臓も鼓動が早い。
 それに気づき、上目遣いで獅王の顔を見ると顔も仄かに上気させていて、雪兎に発情している様子が分かれば優越感が浮かんでしまう。

 仕方ないな…と絆された気持ちで獅王を部屋に入れようと諦める。
 この顔を曇らせたくはない、と思う位には雪兎だって惹かれているんだ。
 段々と深みに入ってしまっているような気がするが…。
 「…どうしよ…勃ちそう…」
 「ばっ…」
 小さく獅王が雪兎の耳に囁いた。

 「だって…」
 獅王の目がじっと雪兎を熱っぽい目で見ていて雪兎までかぁっと顔が熱くなって来た。
 「…ちょっと我慢しろ」
 「します~」
 気の抜けるような返事にくっと笑みが漏れる。

 「…可愛い。…雪兎さん…抱きしめたい。キスしたい」
 「……少し黙ってろ」
 雪兎までその気になってくるじゃないか…。
 「残念…。駅着いちゃった」
 獅王が小さく嘆息して開いたドアから一緒に降り、雪兎はほっとした。
 「買い物ですよね?」

 「…ああ。あ、荷物持ちがいるから少し買い込んでもいいかな…?」
 「どうぞどうぞ」
 雪兎が歩きながらにやりと笑って獅王を見れば獅王は満面に笑みを浮べる。
 男二人でしかもどう見てもサラリーマンと学生の連れに周囲にはどう見えるのだろうか、と思いつつも近くのスーパーで買い物をした。
 いつもはそんなに買い込めないけれど獅王がいたのでトイレットペーパーやらティッシュペーパーなんかも買ってしまう。

 「役立つな」
 「これ位ならいつでも使ってください」
 獅王は何が嬉しいのかずっとにこにこと満面の笑みだ。 
 「今日は比較的寒くもないかな?風もないし」
 夜道を並んで歩きながら他愛もない事を話す。獅王と一緒にいるのが苦には感じないのはどうしてなのだろう?

 話したのはほんの2日前が初めてなのに会話がなくても気まずい感じはしない。獅王が自然体だからだろうか…?
 見た目だって外国人っぽい獅王は人目を引く。プラスかっこいいもんだから男も女も獅王を視線で追うのにそれでも雪兎の心は穏やかだ。
 別の意味で獅王の言動や行動にどきりとはしてしまうが…。

 雪兎は目立つのも好きじゃないのに…不思議だと思うが、きっと獅王の事を密かに自慢に思っているのかもしれない。
 こんな男が自分なんかを好きだといって抱くんだ、と。
 ……嫌なやつ…と雪兎は自嘲を漏らした。


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