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ライオンとウサギ 42

ウサギ
 
 「…ただいま」
 仕事を終えて帰ってきてぼそりと呟き部屋の電気をつける。
 なんとなく物寂しい。
 だから嫌なのに。

 獅王を呼べば来るのかもしれないけれど…付き合ってる今はいいけど別れたら?
 一人には慣れているのに…。獅王はたったまだ二回しか泊まってないのにすでにこんなに存在が大きくなっている。
 やっぱり明日は外の方が…。
 雪兎は月曜日は休みだ。獅王は学校があるだろうけど…。

 電話をかけてすぐ来いと言いたくなりそうだ。でもしない。したらだめになる。…自分が。
 はぁと小さく溜息を吐き出し着替えるために寝室に行った。
 朝の寝起きのままになっていた。
 一応獅王が整えてくれてたらしいけどそれでも朝の記憶が雪兎に色濃く残っている。
 そしてかけられた洗濯物は獅王の物も含まれている。

 「…どこに仕舞っておけばいいんだよ」
 明日また来るはずだからそのままでもいいのか?
 頭を抱えたくなる。
 初めに部屋に連れてきたのが間違いだったんだ…。まさか彼が本当に自分なんかを…?と半信半疑だったから連れてきただけだったのに寝室にまで招きいれたのも雪兎自身なのだ。

 好き、と囁く獅王の声を思い出し、衝かれる熱を思い出すだけで身体が疼いてくる。
 思い出すな…。
 自分に言い聞かせて部屋着に着替え、獅王の存在を自分の中から追い出すようにしながら寝室を出た。
 

 簡単に晩飯を作って味気ない夕食を済ませ風呂もシャワーでさっと済ませるとテレビを見ながらぼうっとする。
 獅王は今日も明日もカフェとは別のバイトがあるらしいけど何のバイトなのだろう?
 はっとして雪兎は頭を横に振った。
 獅王の事を無意識に考えていた…。

 薄い金茶の髪はしばみ色の瞳の目元は切れ長だ。高い鼻梁も日本人ばなれして誰が見ても外国の血が入ってると分かるだろう。体格も自分よりも7つも下なのにずっと背も高いし肩幅も胸板もしっかりしてる。
 眠るときにその腕の中に入ると包まれて安心してしまう位に。
 まだ20歳にもならないのに生意気だ。
 いや…ウサギとライオンじゃ全然違うか、と考えて苦笑する。
 そしてまた獅王の事を考えてた、と溜息を吐き出すとその獅王から電話がかかって来た。

 「もしもし」
 『もう帰って来てた?』
 「ああ。もうあとは寝るだけだ」
 言葉が素っ気無くなってしまう。お前の事なんて考えてない…といわんばかりに自分を取り繕う。
 『雪兎さん…寂しくない?俺行こうか?』

 「別に。来なくていい」
 『本当?寂しがりやだからって言ってたでしょ?』
 「…言ってない」
 『もう…。雪兎さんは俺のウサギさんなんだから我慢しないで何でも言ってね?』
 「………なんだそのお前のウサギさんって」
 『え~?でしょ?俺はユキウサギさんを守るライオンくんなので』

 「…食ってばかりいるくせに」
 『だってぇ~…食べて?って可愛くおねだりされちゃうんだもん』
 「してない!」
 かぁっと雪兎が顔を熱くさせる。
 『今日はお仕事大丈夫でしたか?しんどかった?』
 「いや…大丈夫」

 獅王が気を遣ってくれたせいか今日は本当に前ほどではなかったので普通にできた。
 『よかった。でも明日は我慢しませんから…いい?』
 いいも悪いも言えなくて、ただ獅王のぞくりとする声に反応してどきりと心臓が跳ね、どうされてしまうのだろうとこくりと生唾を飲み込んだ。
 『雪兎さん?…聞いてる?』

 「……聞いてる。暴力的な事はやめて欲しいんだけど?」
 『しません!そんな事!…何言ってるんですか、もう…』
 分かってる。獅王は甘く雪兎を抱く。雪兎のいいように、感じるように…。
 よすぎて自分からもっともっととねだる位だ。それを自分でも分かっているからどうにもばつが悪くて仕方ない。

 『いっぱい乱れてえっちいウサギさんになってくださいね?』
 「うるさいぞ。エロライオン」
 『飢えてるので』
 くすくすと獅王が笑っている。でも獅王は本当に雪兎の事をそのまま受け入れてくれているらしい。エロかろうがぞんざいな口調だろうが獅王は気分を害することもしないしそれにほっと安堵する。

 『………会いたいなぁ…』
 ぽそりと呟いた獅王の言葉に俺も、と同意しそうになって慌てた。そんな事したら獅王は飛んできそうだ。
 「…明日…会えるんだろ」
 『そうなんですけど…。明日の夜までが長いなぁ…雪兎さんを腕に抱いて眠りたいな…俺の方が寂しくて物足りない』
 嘘だ。絶対足りないのは雪兎のほうだ。…でも言わない、そんな事。


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