ウサギ
どうしよう…。もうそろそろ仕事が終わる。
獅王はバイトは終わったのだろうか?勤務中は携帯をほとんど見る事は出来ないから確かめられないけど…。
閉館時間は過ぎて残務処理を終えればもう帰れる。
何気なく外で会わないかと誘ったらどうして?と逆に聞かれ、雪兎の部屋がいいと言われればもう雪兎は黙るしかなかった。
別れた時に辛いから、なんてまだ付き合い始めて言う事じゃないのは分かってる。初めの時の注意の時も獅王に別れるの前提?って言われたし。
雪兎だって別れたいわけじゃない。ずっと一緒にいてくれるパートナーならばかえってずっと一緒にいたい位だ。
でもそんなのありえない。
なにしろ男同士なんて…。それに獅王は元々女の子と付き合ってたんだからきっとその内に結婚を意識すれば離れるのは決まってる事じゃないか。
それなのに獅王はずかずかと、というほどではないけれど、雪兎の退路を防ぎいつの間にか雪兎のテリトリーに居座っている。
「お疲れ様です」
同僚を挨拶して図書館を出て携帯を確認すると獅王からメールが入っていた。
駅で待ってますというメールがあったのは30分前だ。
駅?待ってる…?
雪兎は日増しに寒くなっていく空気のひんやりとした中急ぎ足で駅に向かった。
途中獅王のバイト先のカフェを覗くのはもう癖になっていた。獅王がシフトに入っていないのが分かっていてもついそこにカッコイイ獅王の姿がガラス越しに見えないかな、と思ってしまうのは獅王には勿論言っていないし、言うつもりもない。
勿論駅で待ってるとメールにあった獅王だからカフェにいるはずもなく素通りして駅に向かう。
少しドキドキするのは緊張してるから…。そして小走りになってるからだ。
そんな言い訳を自分にしなくちゃいけないなんて。
自分が認めたら後で辛くなるのは自分だから、だ。
背の高い獅王は一目ですぐに見つけられる。夜の暗い中でも駅のライトで金茶の髪は輝いていた。
雪兎の歩く方に身体を向け手を上げて合図をよこすその姿もかっこいいとか思ってしまう。
「雪兎さん!」
獅王が嬉しそうな声を出して満面の笑みだ。
ストレートに出される表情が可愛いと思ってしまう。
「……荷物多くないか?」
獅王はリュックに紙袋まで提げていた。
「ああ~…そうなんですよ。母親がね…飯作ったの持ってけって持たせられて…すみません」
………これじゃ外で、なんて言えない。
「わざわざ…?」
「何度も泊まっちゃって迷惑だろ、って。一人暮らしだって言ったら…用意してたみたいで…。バイトから帰ってきたら…」
獅王が苦笑して、雪兎も仕方なく苦笑を漏らした。
「じゃ行こうか」
どうして獅王には弱いかな…。今まではさらりと外でって言えてたのに…。
どうにも困惑してしまって獅王の顔が見られない。
雪兎と並んで歩く獅王との関係はいったい人にはどう見えるのだろう?
黙って俯いて歩く雪兎に獅王も黙ったまま歩いていた。ちらちらと雪兎を気にしている様子なのは向けられる視線で分かったがどうも気持ちが複雑だ。
一緒にいられるのは嬉しいと思うし嫌なんかじゃない。ただそれを単純に喜ぶだけの年齢じゃなくなってるから…。どうしても先の事を考えて悪い方の事を考えてしまう。ただ単に夢中になれるほど若くもないし過去の事を踏まえて自分を防護してしまいたくなるから…。
そんな雪兎の複雑な胸の内を獅王はどう思っているのだろうか?
なんとなく雪兎が部屋に獅王を歓迎していないのは気づいていると思う。そこを突っ込んではこないけど…雪兎の微妙な拒絶を敏い獅王が感じないはずはない。
嫌なんかじゃない…。ただ怖いだけだ。一緒にこうしてただ歩くのでさえも周りの目を気にしてしまう。なんといっても獅王は目立つし、人の視線を集めるから。
雪兎みたいにノーマルじゃない存在は陰で隠れるように生息しなきゃいけないのに獅王は日の当たる場所を歩いているから…。
かっこいい、なんて見てた子に告白なんかされて舞い上がって付き合いをOKしたのが間違いだったのだろうか…?獅王は雪兎と一緒に歩いていても気にならないのだろうか?
明るい場所しか知らないだろう獅王はそんなマイナスを感じないのかもしれない。
無言のまま獅王と電車に乗り雪兎のマンションに向かう。今日は日曜で通勤者の数が少ないからだろうかいつもよりも空いていて獅王に抱き寄せられる事もない。
…それが物寂しいなんて…思っちゃいけないのに…。
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