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ライオンとウサギ 52

ウサギ

 あれ…?
 さわさわと隣に寝ていたはずの熱の存在がなくて手で獅王の身体を捜した。
 「…寒い」
 耳を済ませても獅王はもう大学に行ったのか部屋に存在はないらしい。
 「なんだよ…」
 もぞもぞとベッドの中にもぐりこむ。

 身体が重い…手を動かすのもだるい。
 「責任取れよな…」
 そんな事思ってるわけじゃないけど、目が覚めたのに獅王がいないのがちょっとばかり面白くないだけだ。
 今何時なのだろう、とのそのそと手を伸ばして携帯を探す。風呂から上がった後に獅王にスーツから取ってもらって枕の下に突っ込んであったからあるはず…。

 「1時…?」
 午前中ずっと眠ってしまっていたらしい。
 だるいと思いつつ身体を起こすと半身を起こしただけで溜息が出た。
 着替えをのそのそと済ませリビングに行くとダイニングテーブルに紙切れが置かれていた。獅王からだ。
 それを手に取ってリビングのソファに沈み込み、獅王に起きた、と一言だけメールすると獅王からすぐに電話がかかって来た。

 「…もしもし」
 『おはようございます。ごめんね?一人で置いてきちゃって』
 「…べつに」
 『一応挨拶してキスもしてきたんですけど』
 「…全然知らない…。…というか今どこにいるんだ?そんな事…」
 口にして回りに人はいないのか?

 『ああ、外ですよ?学食で昼食べて外に出てきたので。一人だしね?雪兎さんはご飯食べた?冷蔵庫に入ってるからチンして食べてくださいね?あと午後一時間終わったら今日はバイトも入れてないので帰りますね。ちょっとだけ待ってて?』
 「……いや…別に…」
 『買い物なにかありますか?買っていきますけど?身体しんどいでしょ?雪兎さんは何も動かなくていいですからゆっくりしてて?』

 …今日も…来るんだ…?
 「……ん」
 起きた時にいなかったからか物足りなくて雪兎は小さく頷いた。
 ダメかも…。
 もうすっかり獅王の存在が部屋の中に感じてしまう。どうやら洗濯物も済ませてくれているらしい。

 『じゃあとで帰る時にまた連絡入れます』
 「…わかった」
 時計を見て獅王が帰ってくるのはじゃあ4時にはならないかな…とか思ってしまったのは言わない。
 電話を切って冷蔵庫を覗いてみると確かに用意してあってそれを出してダイニングでもそもそと平らげる。どうしてもだるくて動くスピードは遅くなる。

 溜息をつきながら終わらせ、またソファに移動してとぽりと身体を沈めた。
 テレビをつけてだらだらしているうちにうとうととまた眠けが襲ってきてクッションを抱きながらソファに小さく横になった。
 寝すぎだろうと思うけど、眠いんだから仕方ない。昨日は一体どれ位したのか…。声を出すのも億劫だ。
 雪兎はそんな状態なのに獅王はちゃんと起きて学校も行ったらしい。

 「…タフだ」
 そりゃあ受ける側から比べれば負担は違うだろうけどそれでも睡眠時間はいつもと大分違うはずだ。
 風呂の後も止まらなかった獅王だったけど、堕ちるようにして眠ってしまった雪兎の身体を綺麗にしてくれていたらしく身体はすっきりしている。まめだな…と思いそして獅王の手や指や声を思い出してしまう。
 うとうととしながら獅王の帰ってくるのをただひたすら待つ。

 …動けない、というのもあるのだが。
 そんな事をしているうちに時間はあっという間に過ぎたらしい。
 電話が鳴ってはっとした。
 「…もしもし」
 『…寝てた?』
 「ああ…うとうとしてただけだ…」
 声も気だるげになってしまう。

 『何か欲しいものありますか?』
 「……考えられない…」
 『じゃあ適当に買っていきますね!あと買い物したら終わりなんで!』
 「…ん」
 ふっと時計を見れば三時過ぎだ。学校を終わってすぐに獅王は出てきたのだろうか…?
 もう少しで帰ってくる…いや、帰ってくるんじゃなくて…。

 自然にそんな事思ってしまって一人で慌ててそして頭を抱えた。
 …すっかり獅王の存在が普通になってるかも。
 今日も明日も好き…ずっとそのままでいられるなら…。でも雪兎はまだ獅王にちゃんと言葉は告げていない。
 自分から好きだなんて言ったら…本当にもう後戻りできなさそうだ。
 今までも雪兎から誰かに好きだなんて言ったことはなかった。…一人を除いて。
 淡くて苦い思い出だ。

 雪兎が臆病になった原因でもあるかもしれない。自分から好きだと言って自分だけが本気になって…。そして捨てられるなんて…。
 はぁ、と溜息を吐き出しつつちらと時計を確認してしまう。
 獅王だってきっと今だけだ。いつまで続くかなんて誰にも分からないんだから…。


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