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太陽と月の欠片 庇護欲1

 大海は落ち着かない様子で昇降口に立ち、杉浦を待った。
 いつもは部活の朝練もないし、家も近いのでぎりぎりに学校に到着するのだが、杉浦が気になって今日は早くに出てきてしまった。
 来た!
 杉浦が普通に歩いてくる様子が見えて大海はほっとした。
 「杉浦」
 「…おはよ。今日は早いね?」
 「あ、ああ」
 「……もしかして気にして?」
 「ああ。…どうだ?」
 「ありがとう。昨日よりずっといい。まだいつもよりは悪いけど」
 「…そうか」
 それでもやっぱり昨日の廊下で見たような様子ではないのにほっとした。
 「………あんまり気にしなくていいよ…」
 杉浦が屈んで靴を履き替えながら小さく言う。
 大海は杉浦だってあんまり気にされるのは嫌だろうとああ、と頷いた。
 「ただ、何かの時は遠慮するな」
 「……ありがとう」
 小さく杉浦が面映そうに呟いたのに大海はよし、と握り拳を作った。
 …何がよし?
 大海は自分で首を捻った。

 「……あのさ、我儘いっていい?」
 「ん?ああ。何?」
 歩きながら杉浦がさらに小さく言ったのに大海は杉浦に顔を近づけた。
 「出来たら右側、にいて欲しい。右の方がほとんど見えないから」
 大海はすぐに場所を変える。
 「そんな位我儘でもないだろ」
 「…いや、悪い…」
 大海は下にある杉浦の髪を大きな手でくしゃっと撫でた。
 「悪くないし」
 「ん」
 うおっ。可愛い!
 ちょっとはにかんだようなような感じで、鼻にかかった声。
 今は眼鏡かけているが昨日の顔を思い出す。
 それに髪もさらさらだ。
 大海は思わず屈んで杉浦の顔を覗き込むと思わず見入ってしまう。
 「………何?」
 「な、なんでもない」
 妙に慌てて大海は答えた。
 …可愛いって…、ありえないだろ、と大海は自分に手刀を入れたくなる。
 杉浦だって175近くも身長あるし野朗なのに。
 でも眼鏡と長い前髪の下に綺麗な顔があるのは知っている。
 …ま、いっか、と肩を竦めた。
 
 気にしなくていいと言われたってどうしても気にしてしまう。
 いつでも杉浦がこけても助けられるように身構えてしまっている。
 階段登るのにはハラハラして…。
 教室につくと大海を見てはぁ、と杉浦が嘆息した。
 「あ、……ごめん。ウザイか…?」
 その大海の気配を杉浦はずっと感じていたのだろう。
 「……そうじゃない。気にしなくていいから」
 「それは無理」
 「は?」
 「気になるから!」
 大海は言い切る。
 顔を俯けて席に座る杉浦の髪がかかった耳が仄かに赤くなっていた。
 う……。
 やっぱり可愛い。
 ……だから違うって!と突っ込みを入れる。
 「永瀬」
 「何?」
 大海は席に座った永瀬に顔を近づけた。
 「…日本史のノート後で見せて。黒板の字、小さくていつも見えづらいんだ」
 「おう。いいぞ。他にもいくらでも言え」
 「……ありがとう」
 顔を俯けたまま、眼鏡に手をかけて小さく呟くように杉浦が言った。
 ちゃんとノートとっててよかった!
 妙に杉浦に対して庇護欲が湧くと自分でも分かっているけど、仕方ない。
 

 「……あのさ、昨日はあんななったけど、普段もあんまし見えないのも本当だけど…視覚障害にはあたらない位に視力はあるから、まじでそんな気にしなくていい」
 「……そうなのか?」
 昼休み、杉浦と頭をつき合わせるようにして小さく話をする。
 「そう。無駄にただ悪いだけだ。車の免許も取れない位に悪いのにな…」
 杉浦の自嘲的な笑み。
 よしよしとしたくなる位に儚げに見えてしまうのは何故なのか。
 去年の対戦した時の事を思いだす。
 表情を見せない司令塔で毅然としたその姿に何度も目を奪われた。
 あれを見られないのが悔しいのか悲しいのか、残念なのか、感情が入り混じってしまう。
 「日常は何も一応は不自由ないんだけどな……」
 「なぁ……今日はまだひどいんだろ?」
 「昨日よりはましだけどね」
 「………俺さ、やっぱお前のトス打ってみたい…だめか?」
 杉浦が息を飲んだ。
 「………………ダメじゃない」
 よしっと大海は肘を引いてガッツポーズが出た。
 「まじ嬉しいっ!」
 思わず満面の笑みが出る。
 「あのトスが見られるだけでもいいかも…」
 「………全然ボール触ってないから無理じゃない?」
 「いや、それはないな」
 「…買いかぶりすぎだと思うけど?」
 「いや、ない」
 大海は自信を持って言い切った。
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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