ウサギ
獅王がキスなんてねだるから…。
雪兎が我が儘なのは分かっているからつい獅王の言い分を聞いてしまう。勿論嫌なんかじゃないけど…。
キスだってセックスだって気持ちいいし。
優しいし気遣ってくれるし考えてくれるし。
……こんな相手今までいなかった。
比べるなんて悪いだろうけど…。いや、自分が違うのか…?
獅王には初めから作った部分を出していなかったから…。
何故?
ずっと図書館でもカッコイイなと目の保養人物にしてたけど、まさか告白なんて相手からされると思ってなかったし、…いや、だからだろうか?
まさか自分が、なんて期待してなかったから…?
最初から続くはずないと思うのはいつも同じはずなんだけどな。
どうにも自分の事もよく分からない。
「雪兎さんは横になってて?お風呂は今日は湯船でゆっくりの方がよくない?」
「…ん」
「一緒に…」
「無理」
言葉の途中で止めると獅王がくすりと苦笑した。
「…………ですよね。そんな事しちゃったら俺スイッチ入らないわけないし」
獅王が一人で納得している。
本当は別にいいんだけど。なんでもなし崩しにOKしてしまいそうで自分が怖い。
なんでこんなに何でも獅王のしたいようにさせたくなるのだろう…?
無理、と言ったものの獅王がどう思ったか気になったが獅王は全然気にしてないらしく顔は笑みを浮べたままでほっとした。
嫌、と言ったんじゃない、と分かってくれているだろうか?
嫌われたくない、と思ってしまう。でもこんな自分に都合のいいことばかり言ってたら早々に別れましょうって言われるんじゃ…?
獅王は今日も明日もと言ってくれるけど、それに胡坐をかいてちゃダメだろう。
だからといって別れないでと縋るなんてみっともない事もしたくない。
どうにも葛藤が生まれてしまいイライラと自分の中が煮詰まってくる。
全部が獅王の事ばかり考えている。
いつも休みの日は好きな本を読んでゆっくり時間を過ごすのが常だったのに今日は折角の休みなのに本を開いていない。
本を開いてもきっと文字も内容も頭に入ってこないだろう事はもう分かっているけど。
はぁ…と雪兎は小さく溜息を吐き出して獅王から離れてソファに横になった。
頭はわざと獅王と反対方向に向けてだ。
「膝枕します?」
「いらない」
言葉が思ったよりも冷たく響いたのが自分でも驚いた。
はっとして獅王を見ると獅王が複雑そうな顔をしていた。
そうじゃない、拒絶じゃなくて自分の中がおかしいだけなんだ、なんて言い訳も言えなくて飲み込み獅王から目を逸らせてしまう。
「じゃ、用意しますね」
獅王は何事もなかったようにソファから立ち上がった。
雪兎が拒絶したと思ったのか…?
違うのに…!…でもそれを言ってどうする?
結局一瞬口を開こうと思ったけれど、言葉はすっかりと飲み込んでしまった。
自分でも何を求めているのか分からなくなってくる。
続けたいのか終わらせたいのか。
いや…終わらせたいわけではないはず。でも終わりがあるなら傷が深くないように早いほうがいいとは思う…。
獅王がキッチンで動き始めた。
自宅住まいらしいのに獅王は器用にある程度の事は何でも出来るらしいのはもう知っている。
「雪兎さん、鍋借りますよ?」
「ああ」
買い物も何か買ってきたらしく何を作るつもりなのだろうか?
…自分以外の誰かの存在があるのが信じられない位なのに獅王はすんなりと自然にそこにいる。
今日も明日も……と簡単に獅王は言うけれど…。
雪兎はソファに沈んでいきそうな重さに感じる体で顔を覆った。
身体がだるいからいい方に考えられないのだろうか…?
好きだとちゃんと言葉にしてくれるのは嬉しい。だけど素直に全部を受け入れられないのは雪兎が臆病だからだ。
何をどうしたら変われるのだろう?今までずっと終わってきた事が獅王となら続ける事が出来るのだろうか…?
簡単にいいよ、なんて舞い上がってOKしたもののこんなにあっさりと獅王が中に入ってきたのは想定外だった。
でもきっと今までと同じ付き合い方だったら続かないとは思う。でもじゃあ深く付き合えば続くのか?といったらそうでもないのだから答えなど見つかるはずもないんだ…。
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