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ライオンとウサギ 57

ライオン

 何か雪兎さんの気に障る事でも言ってしまったのだろうか…?
 ずっと雪兎さんがどこかぎこちない感じだ。
 上の空な感じ…。体がだるそうなのでその所為かとも思ったけれど違う気がする。
 そりゃまだ色々と話すようになってから日も浅いし何でも言ってなんて無理だろうけれど…、雪兎さんに無理させてるのだろうか?

 でもどこか先を終わるものとしか考えていないような雪兎さんから離れちゃいけないような気がする。
 大体にして寂しいと思う位ならきっと…。
 …って思うのは自分の身勝手な言い分だろうか?

 でもこんな事考えるのも前だったら、めんどくせぇな、の一言で自分の中で終わってた事のはずなのに、不思議と雪兎さんに限ってはそうは思わないんだから現金なものだ。
 焦らない、と決めたんだからゆっくりとだ。なんといっても雪兎さんは臆病ウサギなんだから。
 …エロいけど。

 今日だって気だるげな仕草がどうにも目に毒だ。悩ましげに見える目元なんかチョーやばい感じ。
 そのくせキス一つで顔赤くするなんてそのギャップが激しいんだから困ったものだ。
 どうも雪兎さんが今日は上の空で当たり障りのないように獅王も気をつけるしかない。ここで嫌われたりもう来ないでいいなんて言われたらどん底だ。

 触れても嫌がられているわけではないのでまだそこはいいけど…。
 適当に用意したご飯と昨日の残した分で夕飯を終え、風呂に入ってしまえばあとはやる事もない。
 雪兎さんは風呂上りもソファにころりと横になってぼうっとテレビをみている。見ているとは言ってもただテレビに顔を向けてるだけで見ているわけではないらしいけど…。

 「雪兎さん?具合悪いわけじゃない?」
 「ん?ああ、いや?」
 「そう…?」
 手を伸ばして雪兎さんの髪に触れれば雪兎さんが首を竦めた。
 「…くすぐったい」
 ほらね?嫌がってはない。
 だからほっと安心する。

 「体はいくらか楽になった?明日は大丈夫そう?」
 「んん。平気」
 お風呂上りで上気してた肌が白くなっていく。
 「冷えるからベッド入った方よくないですか?運んであげます」
 「ちょっと寒くなってきたかな…。別に歩けるけど?」
 「いいの。俺がしたいだけ」
 いくらだって触れていたい。

 強引に雪兎さんの体を抱き上げると雪兎さんはくっと笑いながらも獅王の首に腕を回して抱きついてきた。
 息遣いが獅王の首にかかると下半身に熱が集まりそうになってしまう。
 節操ねぇな…と昨日あんなにしたのにまだ欲しいと訴えそうになる熱を考えないようにしてやり過ごし雪兎さんを寝室に運んだ。
 「俺なんかお姫様だっこしたって楽しくないだろうに」
 「楽しいです」

 楽しそうなのは雪兎さんの方だ、と思うけどそれを見るのが獅王だって楽しいのだ。
 触れたい、キスしたい、抱きしめたい、肌を合わせたい。
 欲求は止まる事をしらないらしい。
 「…今日はなし?」
 ベッドに雪兎さんを無事届け横にして布団をかけると雪兎さんが小さく聞いてくる。
 「なし。本当は俺はしたいんですけど…」
 「……無理」
 「でしょ?」

 ベッドの端に獅王は座りそっと雪兎さんの頬を撫でてホクロに触れ、そして顔を近づけてキスした。軽くだけ。顔のあちこちに。
 雪兎さんの肌は肌理細やかで白くて綺麗だ。絶対見た目で27歳になんか見えない。
 「…電気消して戸締り確認してきます」
 「…ん」
 どこか甘えてるような声で雪兎さんが頷くのがまた可愛い。本当に布団からちょこんと顔だけ出してるのがウサギみたいだ。食べて、って誘われてるみたいに思えてくるけど…。

 獅王は軽く頭を横にふりながらベッドを離れキッチンやリビングを確認していく。
 広いよな…と思う。一人暮らしでこんな広いマンションに住んでるなんて寂しいと思うのも分かる気もするけど。それに使っていない部屋もまだもう一つあるみたいだし。
 でもここに住んでるのは大学からと言ってた。お母さんが亡くなったのは高校の時と言ってたからお母さんと住んでたわけではないらしい。それに雪兎さんの口からお父さんは出てこない。あとは半分血の繋がったお兄さんがいるらしいけど。

 …家庭の事情も何かあるのだろうか?
 いつか全部雪兎さんの抱えてることを全部分かってあげられるようになって…雪兎さんが難しく考えているらしい事を軽減してあげたい。
 そこにいきつくまでにはどうもまだまだかかりそうだけど…。
 「気長に…」
 焦らない事、だ。


 


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