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太陽と月の欠片 庇護欲2

side 悠




 悠だって永瀬にトスを上げてみたかった。
 試合は無理でも練習でそれくらいなら出来る。
 永瀬の欲求に思わず悠も頷いていた。
 自分だってそうしたかったんだ。
 無理に抑えていた感情が揺さぶられる。
 もう、ボールに触らないつもりだったのに目の前にいる永瀬にそこまで言われてあっさりと頑なだった心が折れてしまった。
 はぁ、と思わず溜息が漏れる。
 「お前の目の調子がいい時でいいから」
 「…別にトス位ならいつでもいいけど」
 「まじか!?」
 さらに永瀬が破顔するのに永瀬の顔を見ていられなくなる。
 目がこうじゃなかったら一緒のコートに立てたのに…。
 そう思わなくもないが、ボールに触らないと決めていた心が歓喜を訴えている。
 「……でも誰もいない時、な」
 誰かに見られてそこから余計な事が分かられたりしたらいちいち説明するのも面倒になってくる。
 「時間、遅くなってもいいか?部活終わった後は?他の部もわりと終わるの早いから」
 「いいよ別に。電車が残ってれば」
 「そこまで遅くなんねぇし!もしなくなってもウチ泊まればすむことだ」
 「…さすがにそこまではちょっと」
 軽口が出るのに自分でも驚く。
 「うはっ!楽しみだ」
 うしっ!と永瀬が拳を作るのになんとなく恥かしい。そこまで永瀬が喜びを見せるなんて思ってもいなかった。
 全然今まで永瀬はバレーの事などなるべく口にしないように悠に話題を振ってこなかったのだ。
 「我慢しててよかった。ずっと言いたくて言いたくていたんだ。いつだかは思わず言ってしまったけどな」
 永瀬が頭をかく。
 「……さすがに今日は視界が悪いから無理だ」
 「今日はいいって!そんな無茶言わねぇし」
 永瀬の顔がずっと弛んでいるのに悠はどうにも落ち着かない。
 そして楽しみだ、と素直に思える自分がいるのにも驚いた。
 絶対もうバレーには触らない、と思っていたのにあっさりと永瀬はそれを破ってしまった。それ位永瀬は悠にとって特別だった。
 
 まさか高校で会って目の事まで知られて。
 永瀬がすごく悠を気にしてくれている事は肌に感じていた。
 でもそれが煩わしくない。
 気遣ってくれるのも、どれもが悠には悪いな、申し訳ないな、と思うがそれは永瀬に限っては嫌な事ではなかった。
 母親は謝ってばかりで、どこか悠を伺っている。
 それに無性に苛立つ事が多かった。
 永瀬は気遣いながら、そしてトスを上げろと言うのだ。
 自分を一人前のように扱ってくれているようできっと嬉しかったんだろうとも思う。
 それでいて無理にとは言わない。
 知られたのが永瀬でよかった。
 絶対会う事などないと思っていたのに。
 あの対戦した時から眩しい存在だった。
 中学生の中で偉才を放っていた。
 こういう人が全日本に行くんだろうと初めて分かった。
 それなのにこんな無名の学校にいて悠にトスあげろと言っているのだ。


 思わず悠はくっと笑った。
 「杉浦…?」
 「何でもない」
 くっくっと笑いがこみ上げてくる。
 皮肉すぎる。
 でも感謝する。
 もう会えないと思っていた人だ。
 手が届く事など出来るはずないと思っていたのに。
 こうなったら腹を括るか。
 永瀬の中できっと自分は可哀想な杉浦になっているはずだ。
 悠は前髪をかき上げながら永瀬を見た。
 「俺も楽しみにしている。まさか…お前にトス上げられるなんて思ってもなかったから。俺だって楽しみだ。ボールにもう二度と触らないと決めていた俺が上げるんだ、まさかヘボになってないだろうな?」
 「なってるわけないだろ。去年より背も伸びたし」
 「でも高校のネットの高さ、中学と10センチも違うけど?」
 「関係ないね」
 悠の挑発に永瀬もぽんと返してよこす。
 「うん!……それが杉浦、だ」
 「ん?」
 「その顔だ。いつもセッターしてた時に色々考えてる時の顔だろ。不敵な感じで」
 ぷぷっと永瀬が笑っている。そこで授業開始の本鈴が鳴った。
 「さっきとかはなんか可愛くて仕方なかったけど、…っと先生くるな。じゃ」
 「あ、ああ…」
 永瀬が自分の席に戻った。
 可愛い…?誰が?
 自分がか?
 かっと顔が火照って悠は俯いた。
 何を言っているんだあいつは。
 
 

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