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ライオンとウサギ 76

ウサギ

 ぼうっとしながら獅王の体に背を預けて風呂に浸かった。
 「雪兎さん?…大丈夫?」
 「ん…?…ん」
 平気、と緩慢な動きで頷くと獅王がほっと息を吐き出していた。

 「…そんなによかった?」
 「…………聞くな」
 わざわざ確かめなくてもいいだろうに。
 「だって…今までの過去の男と比べられて下手とか思われてたら嫌だなぁって…。それでなくとも本当はもっとぐちゃぐちゃにしたいのに俺に余裕ないからすぐ入れちゃうし」

 「……いい」
 こんなに乱れてあられもない声をあげて欲しがっているのにさらにもっとと獅王は思うのか?
 「…獅王こそ…その…我慢できない…俺…がみっともなくない、か?」
 「全然!嬉しい」
 後ろから獅王の腕が雪兎の体を抱きしめて耳にキスして来る。

 「こう、いうの…も恥ずかしいんだけど…」
 「え?どこが?」
 けろりとした口調で獅王が聞き返してくる。
 どこが、と聞かれるのも恥ずかしい。そりゃあもっと恥ずかしいところを見られてるんだけど、そういう時と落ち着いてる時はまた別というか…獅王はそうは思わないのだろうか?

 「……なんでもない」
 なんとなく言うのも憚れてやめてしまう。どうせなんでもないと一蹴されるだけだ。
 年の事も密かに獅王は気にしていたらしいけど、こういう所は絶対雪兎のほうが敵わないと思う。

 「あ!さっきお姉さんに…って」
 ふと最中に言われた事を思い出した。
 「うん。会ってね?本当は黙って連れて行こうかなとも思ったんですけど、ちゃんと言葉もらえたし、これで堂々と紹介できるな、と思って」
 思って、なんて軽く言ってるけど…。

 雪兎はゆっくりと後ろを振り向いた。
 「そんな事…」
 「いいのいいの。大丈夫。ついでにラサ-ルイの服貰ってこよう!絶対雪兎さんに似合うと思うんだよね…。ユニセックスの服だから」
 「それ…若い子向けのブランドだろう?」

 「雪兎さん…見た目大学生でも十分ですけど?普段はスーツ着てるからそれなりに見えますけど」
 四捨五入すれば30なのに…。
 でも若く見られるなら獅王の隣にいても変には思われないだろうか?と考えてしまえば自分が獅王中心にばかり考えてると分かってしまって複雑な気持ちになる。

 「責任とれ」
 「はい?」
 獅王がきょろんとした声を出した。
 「…獅王の事ばかり考えているんだから…」
 「…雪兎さん」
 ぎゅっと獅王が雪兎の体を嬉しそうに抱きしめる。

 「取ります。いくらでも!だったらうちの家族にも紹介していい?」
 「ああ!?なんでそうなる!?」
 「だって、責任取らないとね」
 「…意味が分からない」

 お姉さんはファッション業界にいるみたいだし、そういう所にいる人は偏見がないのかな、と半分納得したけどなんでそこから家族にまで?
 「うちはホント個人主義なんで全然平気ですよ?親戚にもゲイだ、ってカミングアウトしてるヤツもいるし」
 「は?……本当に?」
 「ホント。そいつはイギリス人ですけど」
 獅王はいたって普通の口調だ。

 親戚がイギリス人…。生粋の日本人な雪兎には分からない世界だ。そういえば獅王は外国人の血が入ってるんだった。だから臆面もなく照れくさいことも口にできるのだろうか?とふと納得した。
 「でも名前の事知られちゃったら笑われそう…」
 「まぁ…そこは…確かに」
 ウサギにライオンだ。

 「でもそこもまた運命的って感じですよね?ウサギさんはライオンくんに食べられてしまう運命なの」
 くっと獅王が笑いながら雪兎の項や耳の後ろにキスしてくる。
 「なんとでも言ってろ」
 気持ちがふわふわしている。
 「あ…後で鍵…やる」
 「うん」
 獅王が嬉しそうに頷いたが、今のはオアズケを喰らってた犬みたいだ。

 「毎日帰って来ていい?」
 「……いい」
 帰ってきて、という所に面映くなる。
 「荷物ももっと運んでもいい?」
 「いい…。使ってない部屋使っていい。…いいんだけど…お前…家はいいのか?」
 「うん?何が?ですから、家は個人主義なんで何も誰も干渉なんかしませんよ?皆好き勝手にしてるし」
 「……」

 どうにも雪兎の感覚では理解できそうもないという事だけは分かった。親戚に外国人がいるような国際的な家だとそうなるのだろうか…?
 随分と違うもんなんだな、と雪兎は自嘲を浮べた。
 


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