ライオン
「ね、雪兎さんの事教えて?」
「俺の何を?」
なんとなく胸いっぱいで食事もさらりと済ませたあとはベッドに入ってただ雪兎さんと抱きしめたりキスしたりと甘ったるいだらだらとした時間を過ごしていた。
「初めて付き合った人は?」
「…そういう事?」
「そういう事です。ものすっごく!気になる」
何しろ一番初めに言われた注意は雪兎さんが傷ついている証拠なはずだ。普通だったらあんな事言わないとは思う。
傷ついて臆病になってる。だから好きと言うのでさえこんなに時間がかかったんだ。
そういう事じゃなければただ嫉妬してしまいそうだからわざわざ過去の事なんて聞きもしない。
「…初めて、は…高校の時。同級生だった。一年で一緒のクラスになって仲良くなってツルんでた…。俺は女の子は好きにならないってもう中学前に気づいてたから…あっという間に好きになって…」
ぽつぽつと小さな声で雪兎さんが目を合わせないようにして獅王の胸に頭をつけながら話をする。
「高校二年で学祭の時に残って作業してた時に二人きりになって…なんとなく妖しい雰囲気になって…後先考えずに好きだ、って言ってた」
雪兎さんの黒髪を優しく撫でて先を促す。
「…相手からは好きだ、って返事はなかったんだけど、そのままなんとなくセックスして…」
「はい?相手からは言われてないの?」
「…なかったけど…でも受け入れてもらえただけで舞い上がってたから…だって男に告白されたって普通は気持ち悪いだろう?」
「雪兎さんだったら気持ち悪いはない」
「……それは獅王だけじゃないのか?」
くすっと雪兎さんが笑った気配に安心する。
「そのまま高校卒業近くまで続いて…大学になったら…避けられて、そのままフェードアウトして終わった…。高校三年の時に俺の母親が亡くなって、ちょっとばたばたというかごたごたというか…そういうのもあったから…」
「そんなの関係ないでしょ。…卑怯なヤツですね。結局好きって言ってもらえたの?」
小さく雪兎さんが首を横に振った。
自分だって付き合った女の子に好きだとは言った事はなかったけど、付き合うときに好きじゃないけど、と最初に断り、それでもいいからと押し切られるのがほとんどだった獅王も同じなのだろうか?
でもその時雪兎さんは真剣だったはず。…だから本気の好きを言うのを身構えるのだろうか?
「その後大学生になって以降付き合ったの何人かいるけど…年上の人と付き合ったときは結婚する事になったから付き合えなくなったとか、やっぱり大っぴらにもできないから女性と付き合うとかで…二十歳超えてからはその…嗜好が同じ人のいる店とかにも行ってみたけど…二股三股されたり…」
「……雪兎さん、…運悪すぎ」
「………」
それじゃあ身構えるようにもなるだろうし、相手を信じられなくもなるよな、と妙に納得してしまう。
「でも、それでよかったのかもね。俺はそんな事しないから」
ぱっと雪兎さんが顔を上げて獅王の目を凝視した。本当に?と聞いているみたいで、獅王はその雪兎さんの目もとのホクロに誓うようにキスを落とす。
「ちゃんと家族にも紹介もするし。…籍入れられるなら入れてもいいんだけどな」
「…別にそこまでは…」
小さく雪兎さんが首を横に振った。
「帰ってくるのは雪兎さんの部屋でいい?…俺、まだ学生で頼りないけど将来性はばっちりなんで期待してて」
「…自分で言う?」
「言う」
くっと雪兎さんが鮮やかな笑顔を見せた。
「…可愛い!ね!もいっかいしていい?」
「無理。明日の仕事に支障が出る」
すっぱりとダメ出しされて獅王はがっくりしてしまう。
「…とはいっても俺、こうしてくっ付いて寝られるだけで幸せですけどね。昨日は雪兎さんからの連絡もないし、一人で寝て…寂しかったな」
「……俺もだ、何度も…目が覚めた…」
ぼそぼそと小さい声で雪兎さんが言ってくれれば抱きしめる腕にますます力が籠もりそうだ。
「あ~…そんな事いわれたらやっぱしたくなる」
「無理」
「うん…分かってますけど。だって一回じゃ済まなくなっちゃいそうだしねぇ…雪兎さんの休みの前の日まで待ちます。おりこうさんなライオンでしょ?」
くっくっと笑いながら獅王が言えば雪兎さんもくすりと笑った。
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