ウサギ
満たされてる…。
全部が。
心も体も全部が一体化して充足感に包まれているように感じた。
一方通行じゃなくて獅王からも自分からも、想いも重なっている気がする。
まさか家族に紹介したいなんて言われると思ってもなかった。だって男なのに…。
そこまで獅王がちゃんと考えてくれていたという事に泣きたくなった。自分が意地を張ってずっと好きという事さえ伝えられなくていたのに、獅王はもっと先を考えていたのだ。
「そういえばここって雪兎さんの持ちマンションなんでしょ?でも住み始めたのは大学から?」
「ああ…。母親は亡くなったと言っただろう?その時に父親に一度引き取られたんだ。いわゆる俺は隠し子ってやつだったんだけど、父親は大企業の社長で…でもそこの家は合わなくて…将来的には見合いしてなんて言われたから異性とは無理だ、ってカミングアウトして、遺産とかも全部放棄して縁を切るかわりにここのマンションを貰った。手切れ金みたいなものだ」
「……家族も誰もいないって事?」
「そうだな」
別にずっとそれで暮らしてきたからなんともない。
「雪兎さん…」
獅王が顔を顰めてぐっと腕に力を入れて抱きしめてきた。
獅王の話を聞いていると仲のいい家族なんだろうな、と思う。そんな家族から離していいのか?とも思う所はあるけれど離せそうにない。
「ごめん…」
思わず謝っていた。
「ん?何がごめん?」
「俺なんかに引っかかって」
「何言うのかと思ったら…」
はぁと雪兎の頭の上で獅王の溜息が響く。
「…これからは俺が家族ね?…ああ…いいなぁ…新婚?」
「……バカ」
泣きそうになってきた。家族なんかいらないと思っていた。誰もいらないと…一人で寂しく生きていくんだと…。
…寂しかったんだ。本当はずっと。誰にも理解してもらえない、たとえ誰かと付き合ってもそれを認めてもらえることもなくてそしてやがてまた自分は一人になるんだと思っていたんだ。
「もれなくうるさい姉と兄と両親がついてきますけど覚悟しててね?」
「………反対され…」
「ないです」
きっぱりと獅王が断言する。
「だって…俺は男だぞ?」
「うん?ああ、知ってますよ?ウチの人達」
「…はぁ?」
「相手は男性です、って言ってある」
「……」
嘘だろ、と雪兎は驚くよりも青くなる。
「そ…れで…?」
「それで、って何が?だから紹介しろって言われてるけど?俺がまともにちゃんと付き合ってるなんて自分から言ったのが初めてだったから真剣にお付き合いしてるなら、って。雪兎さんから好きもらってなかったから自信なくてまだダメって言ってただけ」
「………お前の家ってどうなってるんだ?」
「だから、ウチは個人主義ですから。人の事に詮索しませんもん」
「……ありえない…」
一般常識にはとてもじゃないが絶対当てはまらない。眩暈がしてきそうだ。
「ああ~、うん…普通の家庭とは違うかも、ですね」
獅王が頷いている。
「でも。だからいいんじゃないですか?」
簡単に獅王が言い放つ。
「なのでホント雪兎さんは構えなくて大丈夫ですから」
子供をあやすように獅王がぽんぽんと雪兎の背中を叩いてきた。
「そういえば雪兎さんの来月の休み、決まりました?」
「え?あ、ああ…二週目の日曜に…」
「じゃあその時に家に連れて行きますね」
…いいのだろうか?本当に?まだ信じられない。
「姉貴に車も借りておくから、それで家にちょっと寄って、そのあとドライブ。ね?…楽しみ!ちゃんとしたデートも初めてだし。順番が変な事になってますけど」
はは、と獅王が笑って雪兎も考えるとおかしくなってきた。
初デートの前に家族紹介?その前に同棲してるし?
「…本当だ」
「でしょ?ま、それもアリかな?真剣だから…。雪兎さん、今日も明日も好きですよ?それを続けていこ?ね?」
そうできたらいい…。
まだどこか信じきれない所はあるけれど、獅王がきちんと考えてくれている事は分かる。それだけでも今までとは違うんだ。
もし別れる事になったとしてもきっと今までとは違うはず。
頑なに一人を選んで進んできた雪兎の心の中を氷解させたのは獅王なのだから。
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