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ライオンとウサギ 81

ライオン

 真っ白になっていた雪兎さんの顔色だったけど少しよくなったかな、と思ったら類がとことこと寄ってきた。
 「僕は花岡 類です」
 ぺこんと雪兎さんの前でお辞儀をして雪兎さんがふわりと微笑んだ。

 「穂波 雪兎です。よろしくね」
 「……うん!」
 雪兎さんが体を屈めて目線を合わせると類がぱっと笑った。

 「ユキトさん!」
 そしてがばっと雪兎さんに抱きつく。
 「おい!こら!類!離れろ」
 「イヤ!」
 類が抱きついた拍子に繋いでいた手が離れた。

 「あら…類が一番先に自己紹介しちゃった…。あ、その子の母親で、レオの姉の花岡 沙羅です、こっちは旦那。よろしくね」
 姉貴は雪兎さんにはにっこりと、そして獅王にはでかした!という顔を向けてきた。
 …きっと自社ブランドの服を絶対着せるつもりだ。
 
それを皮切りに両親と兄も名前を言っていくが獅王から見ても歓迎ムードで雪兎さんも類を抱っこしたままで肩の力が目に見えて抜けてきた。
 「ねぇ!なんでレオはウサギさんって言うの?」
 沙羅が一番初めにそことついてきた。
 言ってもいい?と雪兎さんに目線で確認するとちょっと嫌そうにしながらも雪兎さんは頷いた。

 「名前がね、ユキトって漢字で雪兎って書いてユキトなんだよね」
 「…本当に!?」
 沙羅が口を押さえた。
 ぶっとふきだしたくなったはず…。

 「ホント」
 「ライオンに…ウサギ…?」
 「そう。ぴったりでしょ?」
 「……獅王…」
 雪兎さんが低い声で注意してきて獅王は肩を竦ませた。

 「ウサギさん?…ユキトさんはウサギさんなの?」
 キラキラした目で類が雪兎さんを見て雪兎さんは仕方なさそうに頷いている。
 「レオはライオンなんだよ?」
 「知ってるよ?」

 くすっと雪兎さんが笑っている。
 そして家族のだれもが口を押さえた。……笑いを堪えてるのだろう。
 「別に笑ってもいいけど?俺だって名前知って笑っちゃったし」
 「よりにもよって…」
 沙羅が遠慮なく笑い飛ばしてくれる。
 
 でもそれから雪兎さんに仕事は?とか知り合ったのはとか根掘り葉掘り質問が続いた。
 それには獅王が答えたり雪兎さんがおろおろしながら答えたり、で時間が過ぎていく。
 「いいけど、類!いつまでべったりしてる。離れろ」
 べり、と雪兎さんから剥がす様に離すと類は仕方なさそうに義兄の方に戻っていった。

 うわぁ、という目で一斉に見られてほっとけ!と言いたくなる。
 ただ一人雪兎さんだけがちょっとはにかんでいるけど、やっぱ可愛い。
 「とりあえず挨拶終了。姉貴、車貸して。なかなか休みが合わないから貴重な時間なんだよ、今日は」
 沙羅がひょいと車のキーを投げて来たのを受け取る。
 「サンキュ」

 「今日だったら家、明日だったら会社に返しに来て」
 「了解」
 「……すみません」
 ぺこりと丁寧に頭を下げる雪兎さんは奥ゆかしそうで、その仕草に皆が目を向けて見入っている。
 …分かる。物凄く。
 やっぱ同じ血だな、と獅王は納得してしまう。

 外国人の血が入っているからか純和風とか妙に憧れる所があって、そんな雰囲気や佇まいをしている雪兎さんは絶対家族の心をくすぐってるはずだ。
 「もう行くの?」
 残念そうな母親の声に獅王は頷く。
 「また今度ゆっくり連れて来る。雪兎さんのマンションから近いしね」

 「じゃあ今度は晩御飯食べにいらっしゃいよ!」
 「あ…それいいかも。ね?」
 雪兎さんに振ると雪兎さんがあ、と声を上げた。
 「あの!いつだったかもごちそうさまでした!おいしくいただかせてもらいました」
 「そう?よかった!本当にご飯食べに来てちょうだい?全然時間これだけじゃ足りない!もっと雪兎くんと仲良くならないとね!」

 にっこりと母親が雪兎さんを見ているその目はいつでも来てね、と言っている。
 それを雪兎さんも分かって半分泣きそうな顔をしながら小さくはい、と答えていた。
 …少しは雪兎さんも安心しただろうか?退廃的に考える雪兎さんにとってはきっと画期的だったはず。
 「あ、雪兎さんデート行きましょ!」
 「え、あ、獅王…ちょ…」
 雪兎さんの手を掴んで立たせるとさっさと家を出る事にする。このままいたら絶対おもちゃにされるだけだ。

 「雪兎くん、レオいなくても来ていいのよ?レオの小さい頃の写真とかもみせてあげる」
 「え…?」
 母親が玄関までついてきて餌をぶら下げると雪兎さんが見たい!という顔をした。
 「今度ね?」
 「……はい」
 また来ていいのよ、と雪兎さんを受け入れての言葉らしい。

 「そんなの見なくていいです。さ!」
 なんとなく獅王も照れくさい感じで、隣の雪兎さんを見れば雪兎さんも同じ表情をしていた。
 

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