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ライオンとウサギ 84

ウサギ

 獅王の家に挨拶に行き、初デートも済ませ、本格的に同棲するようになって雪兎は戸惑いながらも毎日が安定していると思い始めた。

 やはり家族に紹介された事は大きかったらしい、と自分でも思う。
 なにしろ自分で自分を信じられず、まして男同士で、なんてと自分が思っていたのに獅王はその垣根を大きく跨いでしまったのだ。

 雪兎を抱いたまま、のような感覚だ。
 一人で超えられなかった壁を獅王があっさりとほら、簡単でしょ?といわんばかりに、だ。

 今日も明日も好き。
 獅王が飽きる事なく確かめるように言ってくれる。そして雪兎も今日も明日も好きが続いていた。

 そんなある日、仕事から帰宅したら獅王がちょと電話中だった。
 おかえり、と獅王は口で形を作って雪兎を出迎えてくれる。電話なのに、と思ったが聞いててもいい、と獅王が手でOKの合図を出していた。

 「ああ、ごめん、…で?いつ?……はぁ?まじで?……うそだろ…冬休みまでの一ヶ月位?それで家に…?」
 家という単語に電話は家の人からなのかな?と雪兎がきょとんとしてるとやがて分かった、と獅王が電話を切った。
 「雪兎さん…非常事態です」
 「ん?」

 獅王が電話をダイニングのテーブルに置いたと思ったら頭を抱え込んで座った。そこには獅王が夕ご飯の用意をしてくれていてすでに料理が並んで知る。今日は酢豚らしい。…これはお母さんからいただいてきたのかもしれないなと見当をつける。

 「従兄弟…いや、また従兄弟か?とにかく親戚のうちの一人がイギリスから来る事になったらしくて…」
 それのどこが非常事態なのだろう?と雪兎はきょとんとしていた。
 「そいつ男なんですけど、子供の頃からカミングアウトしてるゲイなんです」
 「………で?獅王の事…もしかして好き…とか?」
 こくりと獅王が頷いた。

 「本気じゃないとは思うんですけどね。ただしつこいんです」
 …本気だからしつこいんじゃ…?
 「襲われかけたのも何度か」
 「え!?」
 「あ、全然問題ないんで大丈夫です。俺、勃たないし」
 でも…それなりの事はされた…のか?
 雪兎がだらだらと冷や汗を流した。男で従兄弟を襲うって…どうなんだ…?

 「なのでそこは全然問題ないので雪兎さんは安心してて?浮気なんて絶対ないから。問題はそこじゃなくて雪兎さんの方なんですよ」
 「え?俺?」
 雪兎の方が驚いてしまう。
 「どうして?」
 「あ。とりあえずご飯にしましょう?食べながら説明しますから」
 「…ん」

 寒い所から帰って来ても暖かい部屋と電気の点いている部屋。こんなのもうしばらく味わっていなかったから物凄く雪兎にとっては特別な事だった。
 雪兎はスーツを脱いでワイシャツ姿でネクタイを外し、とりあえず話の続き、とダイニングに座った。
 「いつも悪いな…」
 「そんな事!雪兎さん家賃も受け取ってくれないし…」
 「持ちマンションだから別にいい」
 元々自分で払ったわけでもない。獅王はその代わり、と家事を積極的にしてくれて雪兎としてはかえって申し訳ない位だ。

 「俺の方が学生の分時間自由だしね」
 それでも獅王は真面目にちゃんと大学も行ってバイトにも行っている。バイトは今はカフェを辞めたからお姉さんのところだけど、モデルの仕事もない時でも雑用があれば行っているらしい。
 それでも雪兎より遅く帰ってくるという事はない。

 「で、問題なんですけど」
 「うん」
 いただきますと顔を合わせ箸をとってよそってくれた茶碗を手に獅王が話を続けた。
 「一ヶ月ほど交換留学生でそいつがこっちに来るらしいんです。で、泊まるのがウチらしいんですけど、まぁそこも親戚だし今までも何度も来た事あるからいいんですけど」
 「…うん」

 「俺の付き合ってる相手に嫌がらせをするんです」
 「……はい?」
 「今まで夏休みとかに来てたんですけど、…ほらあっちって休み長いでしょう?で、俺が休みで向こう行ってて帰る時に一緒にこっち来たりとかしてて…俺もまぁそん時は付き合ってたっていっても本気じゃなかったし…別にいいや、って別れる事になっても気にした事もなかったんだけど。雪兎さんは別だから!だからマズイ!」

 「…どうまずい…?」
 「かなりなレベルで、だと思う」
 獅王が大きな溜息を吐き出していた。


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