ライオン
「ハァーイ!レオ!久しぶり!」
家に帰ったら金髪碧眼のクライヴがすでにやって来ていた。
「…ハイ」
テンションも低くなってしまう。お前の所為で雪兎さんと離れなくてはならないのだと。
「んん?レオ?どうしたの?僕に会えて嬉しくない?」
「別に…」
はぁと獅王が溜息を吐き出せば母親が苦笑していた。
「なんだよ?ハグもキスもなし?」
「…はいはい」
仕方なくハグして頬をつければクライヴは満足そうだ。
これが一ヶ月続くのかと思えばげんなりとしてくる。
「レオ……もしかして彼女いるの?」
金髪碧眼のクライヴだが流暢に日本語を操る。
「いないよ」
疑わしげな目でクライヴが獅王を見ていて危ないな、と獅王は平静を心がけた。
「まいいや。一ヶ月よろしくね」
…なんで来たんだか、とつい愚痴りたくなってしまう。
「全然レオこっちに来ないんだもん」
「受験だったし」
「大学入ってからでも夏休みあったでしょう?」
「忙しかった」
本当は別に忙しくもなかったんだけど。なんとなくずっと雪兎さんの事でぐずぐずしてたという事もある。それで大学休みなのにわざわざ図書館通ったりとかもしてたんだよな…と自分の一途さに笑ってしまいそうだ。
本当に…あの時よりもさらに今の方が雪兎さんの事がずっとずっと好きになっている。
全然話した事もなかったのに気になってて、今はちょっとは分かるようになってさらに、だ。
そんな事を思っていたらクライヴがじっと獅王を計るように見ていた。
「…何?」
「べつにぃ?…そういえばしばらく来てないだけで色々と道路とか店とかも新しくなったね!」
「まぁな」
そこからは当たり障りないように互いの近況を話し合う。
とりあえず、大学は週明けからだというのでこれは行きも帰りも一緒コースか、と獅王はげんなりしそうだ。
せめて来るのが火曜からだったら雪兎さんの休みの月曜も一緒に過ごせたのに…。
いや…バイトだと言ってそうするか?
金曜の今日の朝まで雪兎さんと一緒だったのに会えないとなるともう雪兎さんが足りない気がする。
せめてもの救いは雪兎さんは土日も仕事だ、って事だ。これでもし雪兎さんの仕事が休みだったら絶対に我慢なんか無理そうかも、…とまだ一日も経っていないのにリタイヤしたい気分だ。
会話が途切れた所で部屋に行って来る、と家の階段を上がるとクライヴもついてきた。
「レオ…本当に彼女いない?」
「いない」
「じゃあさ…俺と…」
「無理」
即答すればクライヴがなんだよ、と口を尖らせて拗ねた口調だ。
「お前とは天変地異が起きようがありえない。…天変地異、分かるか?」
「分かるよ。一応専攻が日本文学ですから。あ~…俺も日本に引っ越そうかなぁ…」
やめてくれ。と獅王は天を仰ぎたくなった。
…はたして帰るまで無事にすむだろうか、とどうにも先行きが不安だ。なにより自分に。
すでにもう雪兎さんのマンションに帰りたくて仕方ないのだ。
まだ仕事中だけど…外の空気が寒い中帰ってくるのに今日は雪兎さんは寒い暗い部屋に帰ってくるんだ。
ちゃんと同棲と認識して鍵を渡された後、雪兎さんは小さい声で帰ってくるのが楽しみだ、と暖かい部屋に帰って来る事がなかったから、とそう言っていたのを思い出せばもう雪兎さんの元に行きたくて仕方ない。
はにかみながらもたったそれだけの事で…。今までどれ位一人だったのか…。聞けばお母さんが生きてた頃もお母さんは仕事で帰りが遅く小学校の頃からほとんど温かい家に帰るという感覚がないらしい。
どれだけ、ともう獅王は聞いただけで雪兎さんを甘やかせたくなる。雪兎さんの方が年上だし、ちゃんと分かってるんだけど、そういう愛情に飢えている所がどうにも獅王のスイッチを刺激してしまうんだ。
いつでも好きだよといってやりたいし、そばにいてやりたい。
今回の事もきっと不安に思っているはずだけど、でも信じたいと言ってくれた事が嬉しかった。少しでも雪兎さんが前向きになっている証拠だ。
この一ヶ月を超えればさらに確実な思いに変化してくれるだろうか?と期待もある。きっと少し位離れても気持ちが変わらないという事を雪兎さんに分かってもらえるはず。
そういう意味ではいい機会なのかもしれないと獅王は無理にいい方に考える事にした。
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