ライオン
「足りない……」
はぁと溜息を吐き出しながら頭を抱えていると林が隣で苦笑していた。
「…だろうね。大変ね」
林はクライヴにも会った事があるし獅王の事情もよく知っている。
「全然足らんのよ…」
はぁ、と何度も溜息が出てしまう。
同じ大学に一ヶ月の短期留学中のクライヴは今は獅王とは取っている講義が違うために一緒ではない。
それが唯一の心の洗濯時間だ。
どうにか時間を捻出して雪兎さんに毎日電話はしていたけれどクライヴが目を光らせて付き纏い全然雪兎さんに会えていないのがもう一週間以上。雪兎さん不足でどうにかなりそうだ。しかしこうして講義が別の時はさすがに離れるがそれ以外は用がなくともクライヴが常に獅王の隣にいて、大学の新たな名物になっていた。
「見た目だけだったら目の保養なんだけどなぁ…」
林が苦笑しながらそんな事を言った。
「ああ?そうかぁ…?」
見た目なんかどうでもいい。獅王が会いたいのは雪兎さんだし、美形はまぁ確かにクライヴもそうなのだろうが、獅王にとっては雪兎さんの方が遥かに綺麗だと思うし可愛い。
ああ…と呻りながら獅王は頭を抱えた。
すっかりクライヴも大学でも有名人だ。
人目も憚らずクライヴは獅王にべったりと張り付き獅王が今度は男に走ったらしいという噂も出た位だ。それはすぐに獅王が嫌そうにしてるのと、親戚だという事も知られて立ち消えしたらしいが。
どうせ噂になるなら雪兎さんと…といっても今それはやばい。
クライヴは今日は午前にみっしり講義が入ってると言ってたはず。そして獅王の次の講義はとりあえず代返してもらえればOKな講義。
「…林、代返頼んでいい?」
代返してやる事はあっても頼んだ事がなかった獅王の言葉に林はくくっと笑いながら勿論、と頷いてくれる。
「…図書館行ってくる」
すぐに獅王はこそこそと教室を出た。もう授業が始まる時間で急いで移動している人達は獅王を気にもしない。
一目会えるだけでもいい、と雪兎さん不足の獅王は急いで大学の向いの敷地の図書館へと急いだ。
カウンターにいるか中での仕事か今日は聞いていなかったけれど…、とにかく行く、と獅王は走って図書館に向かった。
…図書館に来るのも久しぶりな気がする。クライヴに少しでも気付かれないようにと図書館にも行けてなかったのだ。
「あ…」
いた!と獅王が息急いてカウンターを見れば雪兎さんがいた。そして雪兎さんも獅王を見て目を丸くした。
「すみません!本を探して欲しいんですけど」
「…あ…じゃあ…何の…?」
「何冊かあるんです!」
雪兎さんの前にお客さんもいなくて、平日という事もあるし館内はかなり空いていた。
「ちょっと手伝ってもらってもいいですか?」
獅王は雪兎さんを連れ出すようにして雪兎さんも隣に座っていた同僚の人に手伝ってきます、と言うと暇だしいいよ、と同僚の人も苦笑して雪兎さんがカウンターから出てきた。
雪兎さんが目の前にいる、という事に獅王は腕を伸ばして抱きしめたくなる気持ちを押さえつける。
視線が雪兎さんを捕まえて、雪兎さんも心なしか顔を紅潮させて獅王を見ていた。
「…どんな本?」
「経済学でマーケティングの…」
歩きながら半分上の空で獅王は説明する。そんなことより、抱きしめたい。キスしたい。雪兎さんは…?
雪兎さんの目が少し潤んでる…?と思ったら顔を背けられた。
「…見すぎ」
小さく囁くように言って顔を俯けた雪兎さんが耳まで真っ赤になってるのが見えると獅王に衝動が湧き上がる。
「…雪兎さん…人の来ないようなとこ…あります?」
本の並ぶ棚に隠れた瞬間に小さい声で獅王が問うと雪兎さんが獅王の腕を引っ張り通路を縫うように歩き出した。
奥まった所の専門書のコーナーの方に連れていかれれば人影もなく囁くような図書館で勉強している人達の声もきこえない。
「雪兎さん…」
もう我慢出来ない…、と獅王が雪兎さんを抱きしめると雪兎さんも獅王の背中に手を回してきた。
「しお…う…んっ」
そして図書館の中だというのに獅王は堪らず雪兎さんにキスした。
足りなくて足りなくて…。
逢いたくて…。抱きしめたくて…。
そんな気持ちで雪兎さんをかき抱きながら何度もキスを繰り返し、そして深く舌を絡めていく。
はじめは少しだけ抗いを見せた雪兎さんも少しずつ積極的に舌を絡め、やがて二人の吐息も唾液も交じりあい溶け出していく。
「しお、う…」
はぁ、と雪兎さんが熱い吐息を漏らすとずくんと下半身に熱が籠もってくる。
「やべ…勃っちゃう…」
「……ばか」
恥かしそうに小さな声をあげた雪兎さんの可愛さにまたキスを繰り返した。
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