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ライオンとウサギ 90

ウサギ

 獅王だ…。
 何日ぶり?一週間以上は経っている。
 あと何日を数えてもなかなか減ることもなくやきもきしていたが獅王がきてくれた、と雪兎も仕事中なのに、仕事場なのについキスを許してしまった。

 だって…寂しくて…。
 ずっと電話はくれていたけれど、すぐに切れる時とかもあってなかなかゆっくり話す事もできなかったのだ。
 獅王の話は本当らしく、図書館に来る女の子達がいつも獅王と一緒にいる外人の事を噂しているのも実は雪兎も密かに耳にしていた。
 獅王とデキてるとか、嘘だったとか。

 色々言われているらしいが、女の子達の話す獅王の噂の事だとつい雪兎は耳がそっちを向いてしまって耳をダンボにして聞いてしまうという事を繰り返していた。
 良くも悪くも大学生の女の子達は獅王に関心が強くていつでも獅王の噂には事欠かなくて獅王から聞かされるまでもなく雪兎が知っている事も多い。
 それが実際に本当か嘘かは別だが。

 獅王の従兄弟だか又従兄弟だかは名前がクライヴで金髪碧眼。細身でお人形さんみたいに可愛いっていう話だ。
 それが始終獅王にべったり張り付いて離れない、と。
 レオに話しかけたらその外人に睨まれた、という女の子もいた。

 …獅王が雪兎を庇ってというのは本当に本当らしいというのもなんとなく女の子達の話からでも理解できるくらいだった。
 図書館では静かに、と注意しつつも雪兎は女の子の話のおかげで助かっていた部分もあった。
 …その獅王が今目の前にいて雪兎を抱きしめてキスしてる。
 「雪兎さん…ごめん…仕事場なのに…」
 そう言いながらも獅王の腕は雪兎を抱きしめたままで雪兎も獅王の背中に手を回してしまっている。

 「足んなくて我慢できなくて…クライヴが今日は午前がみっしりみたいで、俺は林に代返頼んでサボってきちゃった…」
 額を合わせる位に近くで獅王が囁けばそれだけで体がぞくりと反応してしまいそうだ。
 勃ちそうなんて獅王も言ったけど…雪兎も変な気分になってきそうだ。
 「雪兎さん…」
 獅王が軽いキスを繰り返す。

 ああ、獅王の温かい体温だ。毎日寒くて…。
 「獅王…」
 「雪兎さん好き…だよ。ホント…全然電話じゃ足りない」
 「……俺だって…毎日…寒い」
 「ですよね!雪兎さん寒がりだから!ユキウサギなんだから寒いとこ平気なはずなのに…」
 「………」

 足りないと獅王の背中を掴む手をさらにぎゅっと力を入れれば獅王も雪兎の体をさらに抱きしめてくれる。
 「ああ…雪兎さんだ…」
 そして顔を確かめるように獅王の手が雪兎の頬を包んで口端を緩め締まらない顔をするとまたキス。
 「…くすぐったい」
 「どうしよ…止まらないんだけど?」

 「………仕事中だからダメだ」
 「あ~……ですよね…。すみません」
 「いや、俺も…嬉しかったし…謝る事…ない」
 「なんか…雪兎さんが素直だ…」
 くすくすと獅王に小さく笑われてちょっと恥ずかしくなり雪兎は獅王を掴んでいた手を離した。

 でも本当にそう思ったから…。そして獅王がそうしてまで来てくれたのが嬉しかったし、顔を見られてキス出来て嬉しいと思ったんだ。
 「今日分の好き、明日も、明後日も…あと三週間が長すぎる。ゴメンね?毎日キスもできなくて」
 雪兎は小さく首を横に振った。
 「…獅王を…信じる…から」
 「うん。信じて?」

 雪兎の言葉に獅王の顔がだらしなくなっているのが見えればそれも雪兎には嬉しく思ってしまう。
 こんなに雪兎に対して獅王はあけすけに表情を変えるのに大学ではそうではないらしい。
 …それも女の子達の話から聞こえてくる内容で分かった事だった。
 いつでもレオは愛想はいいけれど誰にも興味ないようだ、と…。そんな所雪兎には全然見えない。
 「あ~~…雪兎さん業務に戻らないと、ね…」

 「……ん」
 「寂しいの、ちょっとは埋まった?」
 「…ちょっとは」
 「俺は足りないけど?」
 「俺だって…足りない」
 ああ、くそ、と言いながら獅王が雪兎を抱きしめた。

 「雪兎さんが可愛すぎてツライ…」
 「……ばぁか」
 声が予想外に雪兎自身もビックリする位に甘くなってしまうと獅王の腕がさらに強く雪兎を抱きしめる。
 「ああ…攫って逃げたい…」
 そうすればいいのに…。
 …なんて自分でも思ってしまって雪兎は自分でぎょっとした。

 「仕事戻る!」
 「うん…。雪兎さん…もし本当に我慢出来なくなったら俺いつでも行くから。どんな事しても。だからもうちょっとだけ我慢に付き合ってね?」
 「分かってる」
 雪兎は頷き、そして獅王の手から離れた。


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