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ライオンとウサギ 91

ライオン

 我慢できないのは雪兎さんじゃなくて自分だ。
 業務に戻ってしまった雪兎さんの背中を見送って獅王はその場にしゃがみ込んだ。

 たった今この腕の中に閉じ込めていた存在がなくなってしまった喪失感が獅王の心を苦痛に歪ませる。
 まったく、なんでクライヴの為に自分が、自分達が我慢しなきゃないんだ、と怒りが湧いてきてしまう。
 それでぶちきれて雪兎さんの事がばれればきっとクライヴが雪兎さんを引っ掻き回すだろう事を思えばやはり我慢してた方が得策だ。

 雪兎にいつでも獅王がいつでもついていてあげられるならいいけど、そんなわけにもいかず、さらに何をするか、言うか予想もつかない。嘘なんか平気でつくしあることない事吹聴もしてまわるのも得意だ。
 おとなしく獅王が相手してればクライヴはとりあえず一番静かなのだ。

 「はぁ……」
 早くイギリスに帰ってくれないかな…とつい愚痴を言いたくなる。
 大体なんでそんなに自分に執着するのか。一年の大半は離れているし、二年も会わない時だってあるのに。

 小さい頃からずっとの事で今まではこんなにも邪魔とも思った事もなくてたまにしか会わないしさせたいようにさせてたのが増長させてしまったのか。
 事なかれ主義の自分のしわ寄せが今か、と獅王は頭を抱え込みたくなる。

 小さい頃クライヴは体が弱くてイギリスに獅王が行った時も寝込んでる事も多くてそれが幼心に可哀相だな、と思って甘くなってた。それが段々と体も成長すればそんな事はなくなったんだけど、小さい頃に刷り込みもあり、クライヴの親にもよろしくね、とお願いされたりしてたからこんな事になってしまってる。
 あいつもさっさと自分のパートナーを見つければこんな事からも解放されるんだろうけど…。

 唯我独尊の女王様気質のクライヴに果たしてそんな相手はできるのか?と思えば獅王は頭を振った。
 とにかく今はおとなしくこのままイギリスに帰ってもらうのが一番だ。
 獅王は立ち上がって図書館を出て行く。遠くから雪兎さんと目を合わせて小さく手で合図を送れば雪兎さんも微かに笑みを浮かべて小さく頷いてくれた。

 雪兎さんが相手だとこんな小さな事にも幸せを感じてしまって顔が緩んできてしまうのだから…どんだけだろう。
 でもクライヴのおかげで雪兎さんが素直に寂しいとか足りないとか言ってくれるのがちょっと嬉しいし、信じてくれているのも確認できるのがかなり嬉しいと思ってしまう。
 ずっと信じきれないという雰囲気がたまに雪兎さんに漂っていたのに離れてるのに今はそれが薄い気がする。

 べたべたしてるだけじゃなくて少し離れた方がいいのか…?
 いや、それは…と獅王はちょっと気持ちが複雑だ。
 信じてもらえるのは嬉しいけど、なんで一緒にいる時の方が雪兎さんは不安そうにするのか…。
 「ま、いいや…」
 とにかく今は寂しいと言いながらも獅王を信じてくれているらしいし。

 ただ雪兎さんは遠慮してるのか自分から電話をしてくる事もない。いつも獅王からだ。
 クライヴに勘繰られると困るのでそれでいいのだけど、ちょっと物足りない…とか思うのは獅王の我儘だ。それ位雪兎さんは我慢できる、という事。
 …違う、獅王の事を考えているからだ。獅王の迷惑にならないように、獅王の都合のいい時に合わせてくれて電話を待っているんだ。

 いつでも獅王が電話をすれば雪兎さんはすぐに電話に出る。
 それ位待っていてくれているんだ。
 獅王の都合だけでこうして離れているのにも関わらずに。
 「うーん…」
 獅王の気持ちのほうが落ち着かないな、と自分で自嘲をもらしてしまう。

 目の前に雪兎さんがいるのならばいつでも甘い言葉を吐いて抱きしめてキスしてセックスして確かめられるのにそれが出来ないからか…。
 「…欲求不満」
 今雪兎さんと久しぶりのキスを交わしてどうも雪兎さん不足がさらに加速してしまった気がしてしまう。

 目の前で泣きボクロまでピンクに染める雪兎さんの顔を思い出しただけで下半身を直撃しそうだ。それに連動してえっちの時の雪兎さんを思い出してきてしまって止まらなくなる。
 「だめ」 
 獅王は雪兎さんに小さく手を振ったあと、頭を切り替えようと左右に頭を振りながら図書館の敷地を横切って大学に戻った。


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