シャツのボタンを外していく杉浦に妙にドキドキしてしまって自分はおかしいのではないかと大海は顔が赤くなりそうだった。
「な、大海……ナニアレ?ヤバくない?……そこはかとなく色気を感じるのは俺おかしいかも…」
吉村がくるりと杉浦に背を向けてこっそりと大海に耳打ちしてきた。大海も一緒に背を向ける。
「うわ、よかった…。お前もそう思う?俺も自分おかしくなったのかと思った」
「何こそこそしてんの?」
杉浦の声に何でもありませんっと吉村と大海は声を揃えた。
ハーフパンツは制服の下に履いてたらしい。
振り返ったらすでに杉浦はTシャツハーフパンツになってた。
細!
去年も細いと思ってたけど、バレーしていないからか去年よりさらに細くなった感じがする。
その杉浦が眼鏡を外すとゴムを口に咥えて髪を手で纏める。
伏せた睫毛が長い。内腕が白い。ほつれた髪が額にかかってるのも…。
「………絶対ヤバい……。うわぁ…大海が付き合うの理解した!ちょー綺麗なんですけど。あれ、男…?」
「だから、付き合ってねぇって…」
こそこそと吉村と話していると杉浦が髪を結わえ終えた。
「さすがに髪邪魔だから。何?どうかした?」
「いいえ~~~」
大海と吉村が声を揃えた。
杉浦は二人など気にしないでストレッチを始めた。
「永瀬、オーバーの相手して」
大海はボールを持っていそいそと杉浦に寄っていった。
「距離は?」
吉村に聞こえないようにこっそりと杉浦に聞く。
近くで見れば余計どきどきしてしまうけど表面上は平静を保つ。
「とりあえず近くから。多分来る方向さえわかってれば大丈夫だと思うけど」
やっぱり杉浦は男なのに綺麗という言葉が似合って、どうしても見惚れそうになる。
吉村がヤバイって言うのも頷ける。
「いくぞ」
距離をとって声をかけると杉浦が頷いて手を上げた。
大海がトスで杉浦にパスする。
杉浦が片手で距離をとってボールの下に入り込みしゅるんと音のしないパスを上げた。
指がくにゃりと反ったたように見えるトス。
ボールが沈んだと思ったらするりと上に上がっている。
そして正確に大海の目の前にボールが飛んできて、思わず大海はそれをキャッチしてしまった。
「なんだよ?だめか?」
むっとしたように杉浦が言った。
「す、杉浦……」
思わず駆け寄ってしまった。
「綺麗!綺麗!綺麗!すご~~~~~~~~っく綺麗!!!な、な、吉村?」
見ていた吉村も顔を真っ赤にしてがくがくと壊れたおもちゃみたいに頷いている。
「……お前、おもちゃみてぇ」
「なんだよそれ!!杉浦、美し~~~い!理想のオーバーだ!!大海!早く相手しやがれ!もっと見たい」
「へ~~い。あ、今度はちゃんと返すから」
「……ああ」
杉浦が仄かに顔を赤くして照れてる。可愛い…。
思わず大海の顔が緩む。
「いくぞ」
もう一度距離をとって声をかけた。
「…おう」
綺麗なオーバーはそのままだった。さらに今まで出来なかった分の思いと諦めた思いが入っている分、一回一回を丁寧にしているのが見える。
おざなりに、適当になんて一つもない。
無駄な動きも何一つない。
一回一回がきっと杉浦には重く感じているだろう。
表情は余り変わってないように見えるけど杉浦は嬉しそうだ。
やっぱりしたいんだ。
そりゃあそうだ。こんな綺麗なオーバーなんだから。
返しやすい。
強くもなく弱くもなくすとんと手に吸い込まれるように狙ったところに、大海の手目掛けて杉浦のパスが落ちてくる。
「お前手首強すぎ。もっと柔らかくしろ」
「へ~~い」
杉浦から注意が来て大海が気をつける。
「そう。それでいい」
「ああ!大海交代しろ!杉浦!俺もして!」
吉村が乱入してきた。
「だめだろ!俺の個人練習って言ったんだから」
「けちくせぇ事いうな!」
「いいよ」
杉浦が機嫌よさそうに笑ってた。
結局吉村の相手もして杉浦は吉村のオーバーも見てやってた。
「だから3本指でボールに触ったら手首反るように…って吉村だって知ってるだろ?……それじゃホールディングだ」
呆れたように杉浦が頭を抱えてる。
「お~い!吉村、邪魔なんだけど?杉浦?肝心なのは?」
「……ああ。そうだな」
杉浦が頷いた。
「肝心…?」
「あ、丁度いい。永瀬、吉村にボール投げて。吉村、アンダーで俺に上げて。で、俺がトス出すから」
「吉村!正確に、ちゃんと、丁寧に、杉浦に上げろよ?」
「余裕!」
吉村も何するか分かったらしい。にやっと笑った。
「行くぞ~」
大海がボールを投げ吉村が杉浦にアンダーで綺麗にボールをあげる。
「オープンっ!」
助走をつけてオープンからのアタック。
杉浦のトスが綺麗な弧を描いて落ちてくる。
どんぴしゃのタイミングでずどんと相手コートに大海のスパイクがめり込むかという勢いで突き刺さった。
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