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ライオンとウサギ 100

ウサギ

 「し、獅王!?」
 雪兎の肩を掴みながら挑戦的に市原を睨んでいる獅王に雪兎は驚きやら嬉しさからまぜこぜになった。
 いや、ここは普通に通りの真ん中で人も多いのに男同士の痴話げんかっぽい状況は恥ずかしいだけなのに…、それなのに嬉しいとか思うのはどうかしている。

 「レオ!その人誰!?」
 ヒステリックっぽい声が聞こえてその声の主をみれば金髪碧眼で、どこの物語から抜け出してきたんだ?と思うような王子様みたいに綺麗な外国人が声をあげている。
 レオ、と言っているのだから…これが獅王の親戚の留学生か?

 女学生の噂は聞こえていたけれど、日本人のコンプレックスを刺激しまくりのような容姿に雪兎は目を瞠ってしまう。
 その獅王は市原の事を睨んでいる。
 「あの…獅王?別に…」
 なんでもない、と言おうとしたらぐいと獅王が雪兎の肩を掴む手に力を入れてそのまま雪兎を促すようにして歩き出した。

 「獅王?」
 「このまま帰る」
 「か、帰るって…あ、市原!じゃ…」
 「穂波っ!」
 「レオ!」
 後ろから市原の声と獅王の従兄弟だかの声が聞こえる。

 「獅王…あの…親戚の子は?」
 「勝手に家に帰るでしょ」
 あ、そういえばなんか普通に日本語話してた…?
 「日本語話せる…?」 
 「普通に」
 それなら心配ないのか…?
 「雪兎さんは優しい」

 獅王が雪兎の頭を歩きながら抱き寄せてキスする。
 「ちょっ…獅王?…本当に酔ってる?」
 「酔ってません。飲んでないですから」
 でも…。
 獅王の手ががっしりと雪兎の肩を掴んで離さなくて道行く人にちらちらと見られる。

 「…雪兎さんは…見られるの嫌?」
 獅王もちゃんと周囲から見られているのは分かっていたらしい。
 雪兎も別に嫌なわけではなくて恥ずかしいだけなので首を小さく横に振る。
 「恥ずかしいなら雪兎さんが酔ったふりしといてください。離すつもりないですから」
 獅王が言い切った。
 「あ、の…市原とは別に何にもない…」

 獅王がもしかして心配でもしてるのだろうか、と雪兎が小さく言えば分かってます、と獅王が答えてきてますます恥かしくなる。
 自分がちょっとさっきの親戚に嫉妬してしまいそうになっていて、獅王ももしかしてそうじゃないのか、と思ったのに獅王は違うらしい。
 勘繰りすぎの自惚れすぎだ!

 でも…獅王は嫉妬もしてくれないのか、と雪兎は少しばかりがっくりしてしまう。
 「分かってるけど…アイツは違うでしょ?なにあれ?雪兎さんは俺のなのに勝手に触って!」
 ふん、と鼻息荒く獅王が吐き出す。
 「……え?」

 「………おれが面白くないだけ!分かってる!…分かってるんだけど…俺が悪いんですけど…離れてるの俺の所為だし…でも!あの男…ただの友人…じゃないでしょ?」
 獅王がじっと雪兎を見ていた。
 「あ、…と…」
 「…高校の時の…雪兎さんの…初めての……じゃない…?」
 「え、…ああ…と、…うん、そう…」

 小さく雪兎は疚しいわけじゃないけれど獅王の薄い色の瞳から視線を逸らして頷いた。
 「…アイツ…に雪兎さん迫られなかった?なに?アレ?雪兎さんは俺のなのに俺の方が間男みたいに見やがって」
 「そんな事ないと…」
 「あります。雪兎さん守るようにして!それは俺の役目だっつうの!俺、今自分が支離滅裂って分かってますけど!俺が悪いのに、俺だって雪兎さんじゃないの連れて…分かってるんだけど!…」
 ああ!と獅王がイライラした声を出している。

 ……全然獅王は気にもしないのかと思ったらどうやら違っていたらしい。
 どうしよう…かなり嬉しいと雪兎は緩みそうになった口元を手で押さえて獅王の方に体を摺り寄せた。
 「獅王…うちに一緒に帰る…?」
 「もちろん!……ダメ?」
 「ダメじゃないに決まってる…」

 ずっと一人が寂しくて…獅王がいないのが寂しくて…。市原に言葉を何年か越しに貰っても別に今更、と思っただけなのに、たった獅王のこんな小さな嫉妬が嬉しくて…。
 「獅王…好きだ」
 「な……んで、今…ここで!?」
 獅王が焦ったような声を出した。

 「言いたくなったんだけど…?ダメだったか?」
 「ダメじゃないですけど!キスしたい!今すぐに!」
 「だ、ダメ!」
 さすがに人の往来でそれは!と雪兎が首を横にふると獅王が笑った。
 「わかってます。雪兎さんの部屋まで我慢します。ああ…すみません、先に謝っておく。明日雪兎さん辛い目に合わせる事になっちゃうから」

 「…いいよ。俺だって…」
 足りなかったと雪兎が言えば獅王の歩くスピードがさらに増した。



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