速攻、バックアタック、レフト、ブロード、センター、どれも計ったようにどんぴしゃのタイミングと高さで杉浦のトスが上がってくる。
「うわぁ~~~~~…どうしよう……俺、鳥肌立っちゃった」
吉村が自分の腕を摩ってる。
本当に鳥肌を立ててたらしい。
「杉浦……」
ちょっと息を切らしたような杉浦に大海は声をかけた。
「……永瀬、ありがとう」
すると杉浦からも声をかけてきたのに大海は杉浦に近づいて思わず抱きしめた。
「こっちこそありがとうだ。夢が叶った。出来る事なら試合で…したかった、な」
ぎゃ~~~と吉村のうるさい悲鳴が後ろで上がってる。
「ん…そうだ、な」
杉浦の声が湿っぽい。泣きそうなのか…?
顔を覗くと杉浦の目に涙が浮かんでいた。
大海は自分のTシャツを引っ張って杉浦の顔を拭いてやる。
「きたない」
「失礼な」
「お前ら!キスシーンは目の前でするなって言っただろぉ」
「してないっ!」
大海の声と杉浦の声がハモる。
体育館に3人の声が入り混じっていた。
「え?まじで…?」
こくりと杉浦が頷いた。
3人でコート中央に座り込んでいた。
これを見たら絶対吉村は杉浦をバレー部に誘うだろうと思ったら、杉浦が吉村には話しておいたほうがいいかも、と杉浦自ら目の事を話した。
「だから出来ないんだ。ごめん」
「…謝るなよ」
悔しそうに吉村が言った。
「なんで……杉浦が…あんな綺麗なオーバーするのに……」
大海と杉浦は黙ってた。
「…………だから、勧誘するな、か…」
「そういうこと」
大海が頷いた。
「……だから守るように、か…」
「まぁ」
それも頷く。
「……でも大海、いきすぎだよな?」
「それも自覚はあるけど。仕方ない」
大海は開き直ってる。
「俺は別にそこまで気にしなくていいって言ってる」
「気になるんだから仕方ない」
「………だから、痴話げんかにしかみえねぇっての。ってそれはいいけどさ……でも、普段は普通なんだろ?…バレーしちゃだめとかないならやっぱやったら?試合はきついかもしんねぇけど、でもさ……」
「………ありがとう」
杉浦が少しだけ表情を和らげた。
「あの芸術的なオーバーがもっと見たい!」
「…………お前、それだけだろう?」
「え?そんな事ないけど?」
わたわたと吉村が慌てた。
「…………考えてはみる。もうずっと触ってなかったけど……忘れないもんだな」
「忘れるわけないだろ何年してたよ?それにお前位の奴だったら余計にな。本当に天才セッターだったろうにな…」
苛立ちが浮かんでがんっと大海は床を叩いた。
「永瀬、手だめだろ」
「はい、すんません」
杉浦に冷静に注意されて大海は大人しくなる。
「天才セッターに天才アタッカーに天才リベロが1チームにいたのになぁ」
「リベロは違うだろ」
吉村がおどけて言えば、大海は真面目に否定する。
「え~、ひでぇ~~」
くっと杉浦が笑った。
まだ髪は結んでて動いたから汗で濡れた髪がほつれて額にかかってる。
眼鏡もしてなくて綺麗な顔が目の前にあって思わず見惚れると隣で吉村も食い入るように杉浦を見ていた。
「てっ!なんだよ」
大海は吉村の目を押さえた。
「減る」
「はぁっ!?何が減るって?」
「杉浦。着替え。吉村、片付けして掃除するぞ」
「げぇ~~」
大海は吉村の衿を掴んで引きずっていった。
「お前やっぱおかしいだろ。付き合ってないって言ったのに。減るってなんだよ」
吉村が喚くのに大海は頷いた。
「……だな」
独占欲が出ている。本当は目の事だって知っているのは自分だけでよかったのに、とか思ってしまっているのだから。
「うわ。今自覚?」
「…どうだろう……?いいけど言うなよ?」
「あ?お前らの事ならもう認知されてるだろ。…ああ、杉浦の目の事か?言わねぇよ。ついでに言うけど俺は別に杉浦なんとも思ってねぇぞ?綺麗だな~とは思うけど」
「……思ってる時点で危ない」
「……うざっ。なに大海って嫉妬深いやつだったのぉ?」
「嫉妬、…って……そんなんじゃねぇ…はず…」
二人はネットを外して畳んだり片付けしながら軽口をたたいていた。
大海は自分が分からなくなった。
吉村に言われたけど一体自分は杉浦をどう思っているのだろうか?
そして杉浦は…?
ちらっと着替えをする杉浦を見た。汗で濡れたTシャツを脱いでるだけなのにヤバイと大海は顔を背けた。
野朗の着替えなんて数え切れないほど見てきただろうになんで杉浦のはヤバイのか……。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学