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ライオンとウサギ 107

ライオン

 「多分…獅王の家族が…羨ましい…のもあるかな…?俺はずっと小さい頃は母親とだけ暮らして、その母親は仕事でほとんどいなかったし…高校で亡くなった後、父親と兄に初めて会ったけど…ゲイだってカミングアウトして…そんなヤツとは一切関わらないとここのマンション貰って…それからはずっと一人だから…」
 ぽつぽつと話す雪兎さんの細い肩が寂しそうに見えた。

 そんな雪兎さんをぎゅっと後ろから抱きしめる。家族に縁遠いらしい雪兎さんに獅王はちょっと考え込んだ。
 「…ね?ちょっとの間…俺んち行きますか?」
 「…は?」

 「いえ…クライヴがここに乗り込んでくるかも、を考えたらそれはいただけないので、そうしたら雪兎さんを俺んちに連れて行った方いいかな?って。幸いウチの家族は雪兎さんの味方だしね?」
 「でもまさか!」
 「うん…その方いいかも…」
 そうしたら雪兎さんも少しは寂しいがなくなるだろうか…?

 「連れてこないのか?って姉貴とか母親うるさくて。クライヴの事もウサギさんは大丈夫なのかって心配してくれてた」
 くすりと苦笑してしまう。
 「大丈夫じゃなかったのはむしろ俺の方だったけど!」
 「そんな…事は…」

 「クライヴいる間限定で俺んち行きましょ?ダメ?いやだ?」
 「………」
 雪兎さんが悩んでいる。
 「俺的にはここにクライヴが乗り込んで来た方が嫌だし!そうされた方が雪兎さんにも迷惑なるから。…果たしてクライヴがどこまでするかは分からないけど。雪兎さんと一緒にいるとこを見せ付けたいってのもある」

 「……ぁ…」
 「雪兎さんだけが俺の特別で好きな人で愛しちゃってる人だからね。俺的には家族にも紹介終わってるし書類あれば結婚なんだけど?…まだ俺が稼いでなくて雪兎さんに負担かかってますけどね!…そこだけはちょっと不服…あと三年ほど待っててください…」
 はぁ、と獅王はどうしてもそこは引っかかってしまう。

 「別にそんなのは俺一人で暮らしてるのと変わりないし…むしろ獅王が入れてくれる食費と待ってくれている温かい明るい部屋で相殺以上に思えるし…」
 寂しんぼウサギさんにはそう感じるのかもしれない。いつも帰ってきた時に獅王がいると安心したように笑ってそして嬉しそうに抱きついてくる姿を思い出す。

 どれだけ寂しかったのだろうと…こんなに寂しんぼなのにずっと一人だったって…と獅王はぎゅっと雪兎を抱きしめた。
 「ね!そうしましょ!ウチには言っとくから。明日からね。今日は雪兎さんを独り占め。明日からうるさくなるし。ああ、着替えとかは明日俺が勝手に運んでおきますから雪兎さんは心配しないで?」

 「…でも…」
 逡巡しながらも雪兎さんは嫌そうではない。雪兎さんは家族の愛情が足りなかった人だから家族に憧れている部分があるのかもしれない…。
 そうと分かれば雪兎さんに足りないものをいくらでも与えたくなる。幸いにも獅王の家族は雪兎さんにはかなり好意的なのだ。

 「決まり!ね!明日は雪兎さんはウチに帰ってくること。駅まで俺迎えに行きますから」
 「でも…」
 尚も雪兎さんが少しの抵抗を見せるけど決定、と獅王が言い切って雪兎さんを腕に抱えたまま風呂を上がる。
 「それにしても本当にお父さんとかに会ってないんですか?」

 「会ってない。父親とも思った事もないし…。一緒に住んだ事もないから…。母親は未婚で俺の事生んで…ただ認知はされてたみたいだけど…話した事もなかったからどんないきさつがあったかも俺は知らない…」
 なんでこう薄幸かな…と獅王は雪兎さんの華奢な体をタオルで拭きながら愛しさが増してしまう。
 自分の能天気さが申し訳ない気さえしてきてしまうんだ。

 パジャマまで着せてやると雪兎さんは大人しくされたままで耳の垂れたウサギさん状態だ。
 「明日からはウザイ位になりますから覚悟してくださいね」
 「……大丈夫…かな…」
 行く気になっているらしい雪兎さんに獅王は軽くキスした。
 「大丈夫」

 「……獅王のお母さん…獅王の小さい頃の写真見せてくれるって…見せてもらえるかな…?」
 「…それは別に見なくとも…」
 「……見たい」
 「…いいですけどね」
 獅王が苦笑を漏らす。自分の事を知りたいと思ってもらえるのは嬉しい。

 「雪兎さんの小さい頃の写真もある?俺も見たい。きっとものすっごい可愛いんだろうけど!」
 「…あるけど…少しは…」
 今度ゆっくり見せて?と言いながら雪兎を抱き上げベッドまで運ぶのに雪兎さんはおとなしく獅王のされるがままだ。構われるのが本当に好きらしくて獅王はくすりと笑ってしまう。


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