ウサギ
朝は一緒に雪兎のマンションを出て久しぶりに同じ電車で獅王と一緒に職場に向かった。同じ駅で降りて獅王には大学終わったら適当に雪兎の必要な荷物は運んでおきますからと言われ曖昧に頷く。
だって…同居とかって…。しかも人の家に…。
家族がいるのに…本当にいいのか、と思いながらも獅王のお母さんの優しそうな笑顔を思い出してしまう。
まだ一度しか会っていなかったけれど…獅王の家族は自分の名目上の父親のように蔑んだ視線は向けてこなかったのだ。
大学の時間には少し早いのでまだ獅王の学校の大学生の数は少なく目もあまり気にならない。
「じゃ帰る時にメールくださいね」
獅王に言われ頷いて獅王と別れ職場に向かった。
……落ち着かない。
それでも仕事はこなし、どうにか終える。
いつもなら今日も一日終わった、とほっとする時間だが今日はそうはいかないのだ。
外に出ればさらに冷え込んだ空気が吐く息を白く変えている。いつもと同じように駅に向かいながら携帯を出し、獅王に仕事終わったとメールに入れた。
するとすぐに駅まで迎えに行きます、と返事が返ってくる。
いつもと同じ電車、それなのに降りるのはもう一つ先だ。
どきどきする。
本当に獅王の家に…?
もう一度確認したい気もするけれど獅王は何も言ってなかったし駅まで迎えに、とメールに入れてきたという事はやはり獅王の家に、という事だ。雪兎の部屋だったら獅王はそんなメールは入れて来ないはず。
さすがに一度目よりかは緊張は少ないけれどそれでもやはり緊張しながら一つ先の駅で改札を出ると獅王が待っていた。
「おかえりなさい」
「た、…だいま」
小さく獅王が雪兎の姿を確認するとすっと雪兎に寄り添ってきて声をかけてきた。
あの親戚のクライヴという子が獅王と一緒にいたらやだな、と思ったけれど獅王は一人だった。
「あ、の…昨日の…大丈夫だった…のか?」
昨日獅王はその金髪のクライヴを振り解くようにして雪兎とマンションに帰って来てしまったけれど…。
「ああ、うん。それがなんか今日は一日おとなしくて…拍子抜けって感じ」
「そう…なのか?…それとご家族も…俺なんかが…行って…も…?」
「それは勿論全然大丈夫!クライヴがもう昔から好きになる相手、付き合う相手が男だけだったし、昔から俺につきまとっていたからね、だから免疫あるし」
「ああ……」
なるほど、カミングアウトしてるのは彼か、と納得する。
「もしクライヴが何か雪兎さんに言ってきたり何かしてきたら俺とかウチの誰かのとこに逃げてね?」
「…別に…」
平気だ、と思う…けど。
誰に何言われてもどんな目を向けられても今までの事を考えたら獅王が傍にいて雪兎の事を好きと言ってくれるなら平気だ。
「雪兎さん…今日体大丈夫だった?しんどくなかった?」
獅王が顔を寄せて雪兎の耳に小さく囁いた。
「…平気」
「そう?久しぶりだったから負担かからなかったかな…と心配してたんだけど」
「…平気」
ああ…離れてるよりやっぱり一緒にいたい、と獅王の街灯に照らされる顔を見ながらそう思ってしまう。
「やっぱり…近くに手の届く所に雪兎さんにいて欲しいな」
獅王がぐいと寒くない?と言いながら雪兎の肩を包んだ。
「見られる…」
それでなくとも獅王は目立つのに…。
「いいの」
でも獅王の実家の近辺なのに…。獅王のご家族に迷惑がかかる、と雪兎は獅王から離れようとした。
「あのね!平気だってば!…ホント雪兎さんって奥ゆかしいよね」
くくっと獅王が笑って雪兎の頬にキスする。
だから!どうして人の通る往来でそんな事ができるのか!
「平気平気」
雪兎からしたら眩暈がしてきそうだ。男と付き合うなんて隠すとか、人に見られないようにとかバレないようにとかそう思っていたのに…。
書類上の父親には自分から言ったけど、それは父の駒にならないように牽制の為にだった。
でも獅王のその堂々とした所にも惹かれる。雪兎には持ち得ないものだ。
そっと獅王の厚手のパーカーを掴んだ。
「ん?」
獅王が雪兎の顔を覗きこんできてにっと笑う。
いつもはきりっとしてカッコイイモデル顔なのにいたずらっ子みたいな顔になっている。
「…もっとくっ付いてもいいよ?」
「…家族の前で恥かしくないの?」
「全然?キスも平気だよ?…ウチ挨拶でキス普通ですもん。さすがに今はあんましないけど。あ、小さい頃は毎日してたよ?」
そういえばこの間行った時も普通に頭にキスしてたっけ…。
どうなるのだろうと思いながら歩いていると獅王の家が見えてきた。
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