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ライオンとウサギ 114

ウサギ

 別に逃げたわけじゃないけど…。でも風呂場でとかはだめだろう…獅王の家の他のご家族もいるのに。
 そそくさと脱衣所から出てくるとリビングにはクライヴがいた。
 じろりと睨まれさらに不躾な目でじろじろと雪兎を見てきた。
 それにしても本当に綺麗な子だな…と雪兎は金髪の彼を見てしまう。

 「お風呂…先にいただきました」
 雪兎が声をかけるけれど綺麗に無視された。
 うーん…と内心雪兎は困ってしまう。無視はされたけど相変わらず視線は突き刺さるように雪兎を見ていた。
 どうしたらいいのだろう…?

 「…年いくつ?」
 話しかけられた!
 「…26」
 「はぁ?まじ?年いってるね!」
 ふんとクライヴに鼻を鳴らされた。

 …確かにそうなんだけど、獅王といるとそんな事感じないし、どちらかといえば雪兎の方が甘えていると思うけど…年齢だけでいったら確かにそうだし、獅王もちょっと気にしているみたいだけど。

 くすりと雪兎は年齢を気にする獅王を思って笑ってしまう。雪兎はもう30も目の前なのに、まだ20歳にもなっていない若い獅王の方がそれを気にしているのだ。雪兎にしてみたら若くて選択肢がいっぱいあるのに、雪兎でいいのだろうかと棚から牡丹餅状態なんだ。
 どうして獅王がこんなに雪兎の事を大事にしてくれるのか雪兎には分からない。でも雪兎にはもう獅王しか考えられない。

 ずっと傷ついていたんだと気付いたのは獅王に会ってからだ。寂しいとずっと小さい頃から家族にも飢えていたのかもしれない。母親しかいなかった時もしっかりしなきゃと思っていて甘える事は早々なかったはず。いつも留守番でも大丈夫、と笑っていた。母が亡くなり父親に会ったが男としか恋愛できないと告げたら蔑みの目を向けられマンション一つで縁を切られた。

 別に雪兎も父親に対しての愛情なんてなかったからいいけど…それでもきっと傷ついてはいたのだろう。
 全部見ないふりしていたのだ。気付かないふりをしていたのだ。
 そんな何十年もの心の蓄積を獅王はあっという間に溶かしてくれたのだ。

 「レオ返して」
 「……元々君のものじゃないと思うけど?…それに返せない。俺には獅王しかいないんだ…」
 家族も何も雪兎にはいないも同然なんだ。
 「僕にだってレオだけなのに…!小さい頃からずっと!女の子相手なら仕方ないと思ってたけど…なんでアンタなの?」
 …それは雪兎にだって答えようがない。

 「雪兎さんが雪兎さんだからだ」
 「あ…獅王…」
 脱衣所から出てきた獅王が雪兎の肩を抱いて隣に立った。
 目線が雪兎よりも上になり顔を少しあげると目の前にはカッコイイ顔がある。モデルもするという位のすらりとした高い背にエキゾチックな顔、平べったい日本人顔で日本人体型だろう雪兎とは全然違う人間のようだ。

 「クライヴ、雪兎さんの生活に支障をきたすようなまねは絶対するな!そんな事をしたら俺はお前を一生許さない」
 「……どうせ!しなくたって僕を受け入れる事なんてないんだろう!?」
 「ない。それは昔から言ってるはずだけど?今更だろう?」
 獅王の言葉が冷たい。

 でも……変にクライブに甘さを出さない獅王に雪兎はどうしよう…と嬉しくなっていた。
 獅王と会わないほういいかも、と言われ離れていた間、本当は少しは不安だった。女の子達も噂で騒いでいたしずっと獅王から離れないみたいで、獅王も本当は雪兎よりもクライヴの方が大事なのでは…と心の奥底の方で燻っていたんだ。それを押さえつけるように見ないふり、気づかないふりをしていたけれど…。だからこうして本人を目の前に獅王がはっきりと言ってくれた事に心が震えた。

 「…雪兎さん喉渇いてない?」
 「………大丈夫」
 「じゃ部屋いきましょ」
 獅王がキッチンにいるお母さんに風呂上がったと声をかけてからそのまま肩を抱かれて階段をあがり獅王の部屋に連れて行かれた。
 「ごめんね?雪兎さん…気分悪いでしょう?」

 「そんな事ない」
 むしろ嬉しい位だ。獅王に肩を抱かれたまま雪兎は頭を横に振った。
 「このまま俺の部屋でいいでしょう?ベッド狭いけど」
 獅王が当然、と言わんばかりの口調だけど、一応雪兎の確認を取るのが可愛い。
 こくりと雪兎も小さく頷いた。
 …キスしたい。獅王の家族に受け入れられるのも嬉しいが獅王の言葉や態度が一番嬉しいんだ。
 


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