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ライオンとウサギ 120

ウサギ

 獅王がバイトしてたカフェを帰り道に覗き込むのはいつもの事だ。もう獅王はいないけれど、何度か獅王を待ったここは雪兎の中でもなんとなく特別な感じがするから…。
 「あ…」
 そのカフェを覗き込んだら金色の頭があった。クライヴ…なはず。

 もう大学はとっくに終わっている時間だろうに…。
 どうしよう、と思いつつ少し悩んでから雪兎は店に足を踏み入れた。ドアをあけるとカランカランとドアベルの音がしていらっしゃいませと声がかかったが雪兎は店員に手を上げて客じゃないと示し、まっすぐ金髪の髪の佳人の人の傍に立った。

 「クライヴ?こんな時間まで…?」
 「あんた…」
 声をかけるとクライヴが雪兎を見て嫌そうに顔を顰めた。
 「帰らないのかい?」
 「………俺の事なんか放っておけば?」
 「一緒に帰ろう?」
 「……なんでアンタなんかと?」

 なんで、と言われればそうだけど…。クライヴは獅王の家族だから…。そうはいっても雪兎は獅王の家族じゃないし結婚出来るわけでもないし、関係ないと言われればそれまでだ。
 でも獅王はクライヴを家族と言ってたから…なんとなく放っておけない。それにいつも獅王にくっ付いていたらしいクライヴがそうしていないのは雪兎の所為なのだろう。だからといって雪兎は獅王をくれてやるつもりなど毛頭ない。

 ないけれど、それとこれは別だ。
 「とにかく帰るよ。あんまり遅いと心配するだろう?」
 クライヴの腕を引っ張るとクライヴは顔を俯け雪兎のされるままにしていた。
 …引っ込みがつかなくなっただけだろうか?若いな、と雪兎はなんとなく微笑ましくなってしまう。若いというよりまだ大人になりきれていないのか?獅王の事も子供の独占欲と同じじゃないのだろうか?

 店を出てもクライヴは無言で雪兎に腕を捕まれたままおとなしくそうさせている。そのまま駅に向かって歩いているとにやにやとしながらクライヴを見ている大学生らしき三人がいた。
 同じ大学か?
 知り合い?とクライヴに尋ねようかと思ったら携帯が鳴った。
 手を離してクライヴが逃げたら困るとバッグを腕にかけ携帯に出た。

 「もしもし?ああ…獅王?」
 びくんとクライヴが雪兎の声に反応した。
 「今帰りだけど…クライヴが一緒だ。今から帰る」
 「帰らない!」
 顔を上げて雪兎を睨む碧眼と視線がぶつかった。

 普通は大学生ともなれば夜遊びだってするだろうし放っておいてもいいのだろうけど、クライヴは留学中で獅王の家が帰る先なのだ。なんでもなくてただ遊びに行ってくるというのなら雪兎だって気にしないけど今のクライヴの目は捨てられた仔猫のようにも見えてしまうので放ってもおけそうにない。
 「とにかく一緒に帰るから」
 獅王に電話でそう言うと獅王が何か言っていたがそのまま雪兎は電話を切った。

 「クライヴくーん…俺らと遊び行かない?」
 さっきにやにやとクライヴの事を見ていた子達が声をかけてきた。
 「…行く」
 クライヴが答えるのを雪兎は小さく止めた。
 「やめといた方がいい。あの子達は柄が悪そうだ」

 「アンタには関係ないだろ!」
 雪兎の腕を振り払おうとするのを雪兎はダメだと言って離さない。
 「お兄さん、本人が行くって言ってるんだから離せよ」
 「駄目だ。クライヴ、帰るよ」
 「帰らない!ウサギ!離せ!」

 「ああ?ウサギだって。何?お兄さんウサギちゃんなの?」
 ぎゃははと笑われるがそんなのはどうでもいい。
 ダメだというのにクライヴがついていこうとして雪兎も必然的についていくことになる。
 「クライヴはどこ行きたい?」
 「飲めるとこ」
 「まだ未成年だろう?」
 雪兎がまだクライヴを引き戻そうと声をかける。

 「イギリスでは18歳からいいんです!残念でした」
 「ここは日本だ」
 いくら雪兎が言ってもクライヴは雪兎の腕を振り払い、そして駅構内に入っていくと男達と反対路線の電車に乗ろうとして雪兎も仕方なくついていく。
 別にそんな義理しなくともとも思うけれど…どうしても放ってはおけなくて…。

 携帯が何回も震えているのはきっと獅王だ。
 出たくともまさか込み入った電車の中で出るわけにもいかずごめんと心の中で謝る。
 きっと心配してるはずだ。
 「クライヴ…獅王が心配するよ」
 「はぁ?あんたの事は心配するだろうけど僕の事はしないでしょ」
 「そんなわけないだろ!」
 いくら雪兎が言ってもクライヴは聞く耳を持てないらしい。
 
 

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