ウサギ
電車を降りて男達についていくクライヴの腕を引っ張りながら雪兎も引きずられていく。
「アンタは帰ればいいだろう?僕は遊んでいく」
「ダメだ。帰ろう」
にやにやと笑いながらクライヴと雪兎を見てこそこそと話す若い男達の目は絶対にいいものではない。
ただ友人と遊ぶというだけなら雪兎だってここまでしないけれど…。なぜクライヴは分からないのか。
ヤケになっているのか、雪兎に対してのあてつけなのか。
でもこのまま放ってはおけない。
「遊ぶなら付き合うから…こいつらとは離れよう」
「なんでアンタと遊ばなきゃないんだよ!」
こそりとクライヴに言っても頑なにクライヴが雪兎を拒絶する。
獅王に連絡入れたいのに…きっと心配しているはずだけどそうはさせてはくれない。目を離した隙に、手を離した隙に逃げてしまいそうな勢いだ。
そこまで心配しなくとも…と雪兎も思うけれど、やっぱりどうしても獅王を取ってしまったという思いもあるから放っておけない。
それにもしクライヴを自分に置き換えてみれば…気持ちを分からなくもないから。
自暴自棄になる気持ちも分かってしまう。雪兎の頑なな気持ちも獅王によって初めて溶解したんだ。
「あのね!小学生でもないんだから放っておけばいいだろう?それにアンタとは他人だ!」
くっと雪兎は唇を噛んだ。
そんなの分かっている。獅王は雪兎を家族のように家に入れてくれるけれどどこまでいったって雪兎が他人なのには違いない。
「…そんなの知ってる」
女性を好きになる事のない雪兎にはこの先どうしたって家族が出来る事はないんだ。
でもだからこそ獅王の家族は大事にしたい。この先どうなるかなんて雪兎だって不安だ。今日も明日も好きだと獅王は言ってくれるけど、一年後にはどうなっているかさえも分からないのに…。でも信じたいんだ。だからやっぱりここでクライヴは放っておけない。
そうしたらきっと自分が後悔するかもしれないから…そんな事もうしたくない。
「クライヴ!ここのクラブでいいだろ?」
「行った事ないけど…OK!
クライヴがはしゃいだ声を出している。
「クライヴもレベル高いけどウサギのお兄さんもレベルたけぇよな」
下卑た視線が若い男達から向けられる。
「ホクロがエロい」
にやにやと雪兎まで値踏みされる視線に雪兎は顔を顰めた。そしてクライヴは雪兎に視線が向くのが面白くないのか不機嫌な顔をする。
夜だというのに多い人波。雪兎は静かな店の方が好みだが大騒ぎしてはしゃぎたい人も多いらしい。慣れない場所にクライヴと一緒に雪兎もついていく。クライヴは雪兎を見ては顔を顰め、そしてふいと視線を逸らす。
「ウサギのお兄さんも楽しめば?」
にやにやしながらかけられる声に返事などしたくはない。
クライヴがやっぱり帰る、と言わないかと待つが帰る気はないらしくドリンクに手をつけていた。
その隣に雪兎も立つが慣れない雪兎は自分が浮いている気がする。
いや、実際浮いてるのだろう。コートは預けたがスーツ姿。年齢層が若い所にスーツ姿はちらほらとしかいない。お洒落な若者が多い中に見た目は真面目そうだと自覚のある雪兎だ。それこそ獅王のお姉さんから貰った服装なら合うのかもしれないが。
クライヴはその獅王のお姉さんから貰った服装だったし、連れてきた大学生も同じような感じだ。どうしたって雪兎は場違いだろうに。
「ウサギのお兄さんも酒くらい飲んだら?」
男の中の一人は店の従業員と顔なじみなのかクライヴの年齢確認をされる事もなく中に入れられクライヴも普通に馴染んでいる。
「いや…」
でも中は熱い。外は息が白くなる位に寒いのに。慣れない雰囲気にだけでも酔いそうだ。
「折角来たんだから楽しめばいいのに。支払いも気にする事ないし?あいつんち金持ちだからさ」
一人が雪兎の肩に手をかけながら一緒にいた連れの一人を指差す。
「俺はクライヴよりお兄さんの方好みなんだよね」
そんな事言われても嬉しくもなんともない。
「へぇ…?ウサギも遊べばぁ?」
クライヴまでにやにやと雪兎を見て嫌な笑いを浮かべている。
「レオには黙っておくし?」
「何?お兄さん、あのレオと関係あんの?クライヴは親戚なんだろ?」
「まぁねぇ。この人は何も関係ないけど」
そうだけど…。雪兎はクライヴの嫌味な言い方に眉を顰めた。
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