side 悠
こいつはニブいのか?
悠は半分呆れた様に永瀬を見た。
素で頼っていいとか、迷惑じゃないと言って、立ち位置はいつも右。
駅まで帰るのにも当然のようについてきてそれなのにあっさりとふざけてるだけだろと一刀両断だ。
わざと永瀬が見ているのを知ってシャツ脱いで、髪結わえたのに…。
永瀬がこの顔を好きらしいのにはすぐに気づいた。
何度も何度もぼけっとしてるのを見ている。
それならば、と仕掛けたのに全然乗ってこない。
そのくせ変な独占欲はあるらしくて吉村に目の事を話するのも面白くはなかったらしいし、吉村が杉浦を見るのも目を塞いでいたのに首を捻る。
しかしやっぱり永瀬はこんな学校にいていい選手じゃない。
高校1年であれ…。
空恐ろしい。
……でも気持ちよかった。
久しぶりのボール。
何ヶ月ぶりなのに指に馴染んでいた。
自分の上げたトスになんの迷いもなく突き刺さるようなスパイクの連続だった。
そう。分かる。どんなタイミングか。
どこの高さか。
永瀬の好きな所が読めた。全部…。
永瀬の出来る事なら試合で…したかった、の言葉に泣きたくなった。
つんと鼻の奥がしみた。
それにも永瀬はすぐに気づいて自分のTシャツで顔を拭ってくれて…。
だから普通そんな事しないだろうと悠は思う。
何も考えていない素なんだから。
さてどうしてくれようか、と悠はじっと永瀬を見た。
翌日の昼休み、廊下で吉村、永瀬と3人で話をした。
「まじっ!?」
「ああ」
やる、と言った杉浦に吉村が喜んだ。
「でも選手は無理だから」
「じゃ、監督は?杉浦、鬼監督合いそう~」
「吉村?」
悠がにっこりと笑ってやると吉村が慌てる。
「なんでもないです。でもまじ嬉しい!あのオーバー間近でみられるのが」
「…ありがとう」
褒め言葉は素直に受け取る事にする。
「あっ!」
吉村が大きな声を出したと思ったら悠の目の前が暗くなった。
「馬鹿野郎。中学生でもないんだからふざけるな」
悠の頭の上で永瀬の声が響いた。
暗くなったのは永瀬の身体のせいらしい。
廊下でボールで遊んでいたやつらがいたのには気づいてたけど、そのボールが悠に向かって飛んできたらしく、永瀬が庇ってくれたのだ。
「…ありがとう」
「…別に」
当然だといわんばかりの永瀬の態度の意味は分からない。
「…あのな、杉浦」
吉村が話しかけてきた。
「ん、何?」
「大海、果てしなくニブちんだよ?」
「……果てしなく…?」
吉村がこそりと小さく言ってきた。
こそっと言ったって本人にも聞こえてる。
「そう!俺もまさか自分にまでニブいとは思ってもなかったけど」
「……そんなに?」
「そりゃあ、もう!馬鹿みたいな位に」
くすと悠は笑った。
「別にいいよ。それはそれで楽しそうだし」
「うわっ………まじで?」
くすとまた悠は笑った。
「何の話?」
永瀬がきょとんとしている。
「いや?なんでもない」
悠がふっと笑うと吉村は顔を青ざめた。
「杉浦…ってもしかして…本気…?」
「そうだけど?」
「まじで~~~~!?い、い、いつ、から…?」
「さぁ?去年からじゃない?」
「はぁ!?でも……」
吉村の目がバレーやめてたのに?と聞いている。
「会わなけりゃ何もなかっただろうけどね」
「ひ~~~」
「なぁ?何の話?」
永瀬がむっとしている。
「なんでもないよ。永瀬、いこ」
くいと永瀬の袖を引っ張ればおぅ、と永瀬が答える。
「じゃ、後で」
「あ、ああ…」
吉村と別れて自分達のクラスに戻る。
「さっきはありがとう」
「いや別にいいって」
「頭…ぶつかりそうだった?」
「…だな」
「…だったら本当に助かった。頭あまりぶつけるなって言われてるから。衝撃で失明とかもあるらしいから…」
「まじでか!?」
「ああ」
こんな事を言ったらますます永瀬は悠を守るのに必死になってしまうだろうか?
嘘は言ってない。本当の事。
でもそれを言う事はないにのにわざわざ告げている自分。
確信犯なんだ。ごめんね?
くすっと悠は笑みを浮かべた。
テーマ : BL小説
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