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ライオンとウサギ 124

ウサギ

 「クライヴ…大丈夫…?」
 タバコを一本頂戴とクライヴが男にねだって貰ったのだが、その直後クライヴが気持ち悪い、変と言い出しトイレまで付き添った。
 「クライヴ…」
 洗面台に青い顔をしてぐったりとして手をついたクライヴに今度こそ帰ろうともちかけるとさすがにクライヴも小さく頷いて雪兎はほっとした。

 雪兎が背中に手をかけてもクライヴは振り払う事もない。
 「ウサギ…」
 クライヴの碧い目が縋るように雪兎を見て雪兎はクライヴを守らないと!と意気込んだ。
 「とにかく店を出よう」
 空気が悪いから店にいるだけでも具合が悪くなりそうだ。

 「…ん」
 「クライヴ…大丈夫か?店を出ようか」
 ここに連れて来た奴等がクライヴを気遣うようにクライヴの身体に手をかけてきた。
 「いい。触るな」
 「そういっても華奢なウサギのお兄さんじゃそんなぐったりしたクライヴ外に連れ出すのも苦労するだろう?」

 気遣わしげなのは表面だけだ。目の奥には揶揄が含まれ何か目論見を感じる。
 「それなら友人か誰かを呼ぶから放っておいてくれ」
 「まさかそういう訳にもいかないだろ?俺達が連れて来たんだし。とにかく店から出た方がいいのは確かだって」
 …たしかにクライヴは口元を押さえて青白い顔色をしている。

 「クライヴ、寄りかかって」
 雪兎が身体を支えようとしたら男の一人がクライヴを抱きかかえるようにした。
 「いいと言ってる!」
 「外出るだけだって。ほら」
 雪兎よりもずっと年下のはずなのに、獅王といい身体が大きくてがっしりしていてどうしたって雪兎に敵いそうになくとにかく外に、と仕方なくクライヴを預けた。だがすぐ傍から離れない。

 「クライヴ」
 ぐったりとしているクライヴに声をかければ焦点の合わない目で雪兎の方を見る。
 「ちゃんといるよ」
 雪兎の声に小さくクライヴが何度も頷いているのが痛々しい。さっきまで雪兎に悪態をついていたのに…。

 「さっきのタバコ…ただの煙草か?」
 確かめるように男の一人に雪兎が視線を向けるとにやにやしながら肩を竦めるだけできちんとした答えが帰ってこない。
 …まさかドラッグの類か…とニュースでしか見た事のない、雪兎の身近にはない事に思い当たる。
 店の表では邪魔になると雪兎が止めるのを無視し、裏通りに連れて行かれた。

 「クライヴを離せ!返せ!」
 「お兄さんのじゃないでしょう?それに関係ないってクライヴも言ってたし?」
 「でも返せ」
 クライヴの腕を引っ張るがクライヴは身体に力が入らないらしくくったりとして男に身体を凭れている。

 「ウサ、ギ…」
 「クライヴ!いるよ!ちゃんと」
 獅王…助けて…と心の中で獅王を呼ぶ。どうしたらいいのか!
 クライヴはぐったりしてるし他に男が三人もいる。
 雪兎一人ではどうしようもない。

 「ちょっ!どこに!?」
 「ああ?クライヴを介抱してやるんだよ。水飲ませてやった方いいだろうし、休ませた方がいいだろう?」
 店の裏手のラブホに入っていく男達に雪兎が慌てた。
 「いい!あとは俺が!」
 「お兄さんもついてくればいいじゃん?心配なら」
 「はな、せ…」
 クライヴも小さく呻いた。

 「なんだよ、介抱してやるって言ってるのに。いいから黙ってついてきな!」
 「ほら、ウサギのおにいさんもおいでよ」
 雪兎のほうが好みだと言った男が雪兎の背中を押してきてクライヴを置いて逃げるわけにもいかずクライヴの力のない手を握った。
 「ちゃんと…いるから…」
 すると少しだけクライヴも手を握り返してくれて雪兎は覚悟を決めた。

 とにかくクライヴは守らないと。イギリスから留学に来てて獅王の家で預かっているのだから。いくら雪兎は関係ないといわれても雪兎を抱きしめてくれた獅王のお母さんやお姉さんやルイくんの顔が浮かぶ。
 あの家族の元にちゃんとクライヴを返してやらなければいけない。
 雪兎はぎゅっとクライヴの手を握ったまま男達についていった。

 何がどうなるのか…クライヴを心配しているようにしながらもホテルの場所を探す事もない足どりはこんな事を運ぶのに慣れているのではないのか?どうする、と相談するような素振りもないまま部屋を決め中に入っていき雪兎も続いた。
 


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