ライオン
タクシーの中で雪兎さんはほっとしたように獅王に身体を預けてきて獅王は安心させるように肩を抱く手に力を入れていた。
本当によかった…。
クライヴも勿論だけど、雪兎さんがだ。
クライヴの所為でもし何か雪兎さんにあったとしたら獅王は本当にクライヴの事を一生許せなかっただろう。そうならなかったのもよかったと思う。
それに自分も許せなくなっていたはずだし、自分をきっと責める事になったはず。
雪兎さんは助けてくれてありがとうなんて礼を言うけれど…そうじゃない。
全部獅王の所為で獅王のエゴだ。
……強くありたい。雪兎さんの全部を負う位。
それ以降はしんとタクシーの中に静かになり、獅王が道順を告げる声以外聞こえなくなった。
でも手はしっかりと雪兎さんの身体を確かめるように掴んでいる。放さない。少しでも離したらこの人はどこかに行ってしまいそうだ。
うっすらと雪兎さんが顔を赤くしながら俯いている姿が儚げで、でもそう見えるけど実は芯が強くて…そんな所が獅王は惹かれるんだ。
早く抱きしめて腕の中に閉じ込めてキスしたい。
何もなかったとはいえ、雪兎さんのスーツは脱がせられかけてたし肌を露出していた。そんな所でさえ勿論誰にも見せたくないし雪兎さんの全部は獅王のものだ。
「あー…」
独占欲が心に渦を巻く。あんな見知らぬ男…いや、自分と同じ大学の生徒だったらしいが…あんなことするバカモノに雪兎さんの肌見せるなんて勿体無いことを…。
「?」
声を出して上を向いた獅王を雪兎さんが不思議そうに見て獅王はなんでもないと苦笑しながら首を横に振った。
「早く抱きしめたい。キスしたい」
雪兎さんの耳に小さく囁くと雪兎さんも小さく頷いて余計焦燥感が増してくる。
だって!車の中は暗くて顔色まで見えないのに見えなくとも耳まで真っ赤になってるだろうって分かる位の可愛い頷き方なんだから!
早く家に着け!と念じながら獅王は我慢すべく顔だけ窓の外に向けた。このまま雪兎さんの顔見てたらそのホクロに誘われて襲ってしまいそうだった。
えっろ…。
暗くても見える伏せられた睫毛の下にあるホクロから目が離せなくて…。
どんだけだよ自分、と頭を抱えたくなる。
余裕なんか全然ない。もう何度も抱いてるしどこがいいとかエロがすきなとことかもう知ってるのにそれでもやっぱり止まらないんだから…。
あとでね、と言った雪兎さんの照れた顔が可愛い。獅王が部屋に飛び込んだときの驚愕の顔から泣きそうに安堵でくしゃりとなった顔が忘れられない。頼りにしてくれていたという事だろうか?年上とか年下とか関係なく?学生とか社会人とか関係なく自分を見て雪兎さんが表情を変えたのだから。
「お客さん、近くきましたけど…?」
「ああ、その先の角を曲がった所でいいです」
やっとタクシーが着いて財布を出そうした雪兎さんを抑え、獅王が支払いを済ませるとタクシーを降り家に入った。
すると玄関で待ち構えていた両親が帰ってきた雪兎さんとクライヴを抱きしめた。
「心配したのよ!」
「………ごめんなさい」
クライヴがさすがに親には殊勝な態度で謝っていて、雪兎さんは目を見開いて固まっていた。
「雪兎くんも!よかった…無事で」
「す…みま…せん」
「二人ともうちの子なんだからあんまり心配させないでね…」
おおらかなな母はさらりと雪兎さんの欲しがっている言葉を口にする。それは獅王が与えたくとも与えられない言葉だ。
魔法にでもかかったように雪兎さんは固まって動けない。
「うちの…子?」
「そう。うちの子。…え?違うの?レオのお嫁さん…じゃないか、お婿さん?」
さらに雪兎さんの黒い目が大きく見開く。
「可愛い!ほら入って入って!」
くすと母親に笑われていた雪兎さんがいいのか?と言わんばかりの疑わしい目を獅王に向けてきた。
「いいの。ほら、雪兎さんはコートとスーツも脱いじゃって。疲れたでしょ?」
「あ、ああ…」
呆然としたままの雪兎さんの背中を押してやると雪兎さんはのろのろと広い玄関を上がった。
「うちの子…だって」
小さく雪兎さんが獅王に向かって泣きそうな顔を見せた。
「でしょ?だから言ったでしょう?家族だって」
雪兎さんは顔を伏せ唇を戦慄かせていた。
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