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太陽と月の欠片 独占欲1

 ネットも立て、用意が出来た所にバレー部の部員全員が集まった。
 「1年の杉浦くん。バレー部に入る事になった…」
 そう告げるキャプテン、3年の青山は複雑そうな顔で大海と杉浦を見ていた。
 どうやら噂は3年まで知っているらしい。
 当人の自分が知らなかったのが間抜けだと大海は頭を抱えたくなった。
 きっとみんなの顔を見て杉浦が永瀬目的で入部したのだとでも思っているのだろう。
 「え~~~!?永瀬の彼女なんだろ?なんで今更?」
 1年の中から馬鹿にしたようなブーイングが起こった。
 彼女じゃない!…喩えて言うなら彼氏か?
 じゃなくて!
 大海が立ち上がろうとしたら杉浦が目で止めてきた。
 前髪は長いまま、眼鏡もかけたままだ。
 杉浦は大海から視線を外し、くるりと部員を見渡すとくすりと冷笑を浮べ、口を開いた。
 「あんた達バレー経験者なんでしょ?そうだな……バレーで決着つけようか。バレー上手けりゃ文句ないでしょう?」
 強気な杉浦の言葉。
 まだ目の事は言ってない。
 大海はなんで杉浦がそんな事言うのかとはらはらした。
 「そうだな…俺、永瀬、吉村、3人でいい?その代わり俺に不満ある人何人でもそっち入っていいから」
 くすっと杉浦が笑ってコートを指差した。
 キャプテン止めろよな、と思って青山を見れば面白そうにしていて止める気はないらしい。
 「いいけどちゃんとアップしてからだぞ」
 いいのかよ!と大海は突っ込みたくなる。
 「永瀬、吉村、いいよね?」
 にこりと杉浦が笑みを浮かべるのに大海は頷くしかない。
 吉村もその通りだった。

 アップを入念にする。
 「杉浦のパスは見せないほういいっしょ」
 アップでボールに触るけど吉村がにっと笑って言った。
 「そう?別に見せてもいいけど…」
 「いや!奴らの驚く顔がみたいっ!!!あいつらスタメン入り決定の俺にも面白くなさそうなんだよね」
 「レベル低。自分達がイマイチのくせに」
 杉浦が毒を吐いている…。
 大海は唖然として杉浦を見ていた。
 3人で固まって話しているとキャプテンがするぞぉとニヤニヤしながら言ってきた。
 「杉浦、眼鏡」
 吉村が声をかけると杉浦が頷いて眼鏡に手をかけた。
 「え!取るの?」
 大海は思わず声をたてる。
 見せたくねぇ…、と思わず唸ってしまった。
 「…邪魔だからね」
 杉浦がふっと笑って眼鏡を外すと昨日と同じように髪を結わえて顔を曝け出した。
 それに全員が全員魅入っている。
 くそ面白くない。
 「旦那、短気だめよ?」
 思わずむっとしてると吉村が大海の背中をぽんと叩いて小さく大海にだけ聞こえるように言うのに面白くない気持ちをぶつけるために吉村を小突いた。
 「……なにしてるの?」
 呆れたような杉浦の声。
 「なんでもねぇよ」

 相手コートに立ったのは1年生3人と2年生。セッターは2年生で別に杉浦に反対というわけではないけどセッターが一人しかいないので必然的に入れられたのだ。
 3人で頭をくっ付けた。
 「永瀬センター側で必ずブロック立って。ストレートは打ってこさせないようにするから吉村は対角で」
 「ラジャ!……うわ、楽しい~~~~」
 「いいけど、吉村ちゃんとレシーブ上げろよ?」
 「できればセンターに高めであげて」
 「いいよ。奴らのスパイクなら余裕余裕!」
 「永瀬はサインもないし…口で言って」
 「はいよ」
 大海は杉浦をじっと見た。吉村も見ている。
 だって杉浦の口端が上を向いてるから。
 「杉浦、チョー楽しそうね?」
 吉村が笑った。
 「ん?」
 思わずといった感じで杉浦が口を押さえる。
 「悪い……楽しい」
 「よしっ!いっちょかましてやっぞ!」
 「へ~~い」
 「大海!気抜けるだろ~!……杉浦はずっとセンター立ってていいから」
 「…ごめん」
 そこに関しては杉浦は吉村にすまなそうにする。吉村はいいって!と笑顔だ。

 「はじめるぞ~~」
 キャプテンが審判をするらしい。
 ぴっとホイッスルを鳴らした。
 先攻は向こうの文句言ったチーム。
 「吉村!」
 「オッケ~~~イ!」
 広いコートに3人だけなのにボールは吉村に吸いつけられる様に飛んできて吉村が綺麗に杉浦に上げた。
 「即効バック」
 まだボールは杉浦の手に届かないうちに大海はバックラインからジャンプした。
 杉浦が触った瞬間大海の手に向かってボールが飛んでくる。
 大海は思い切り叩き付けた。
 「ひ~~~!化け物~~~!」
 吉村が後ろで騒いでる。

 吉村が抜かれれば仕方ないけど、吉村が綺麗にレシーブすれば杉浦の芸術的トスが大海の気持ちいい所に飛んでくる。
 攻撃の幅を見せ付けるようにオープンから即効、なんでも杉浦のトスは完璧で大海はこれ以上ない位に気持ちが高揚してきた。
 コンビを組んでいたのでもないのにどれもが大海のいい所に飛んでくる。
 もはや誰も対戦なんか見ていなかった。
 ただ杉浦の鮮やかなトスワークとその後に響く大海の放つ今まで聞いた事もない様な重低音のボールがコートに突き刺さるのに呆然としていた。
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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