大海は面白くなかった。
「旦那、抑えて抑えて…」
吉村が大海の背中をとんとんと叩いて宥めていた。
杉浦が囲まれている。
そりゃあ!あんな芸術的オーバー見せられて完璧トス見せられたら誰でもそうなるだろう。
2年の正セッターでさえも顔を真っ赤ににて杉浦に詰め寄っている。
なにしろ杉浦のトスは嫉妬どころの低俗な感情をすっ飛ばす位の誰でも見惚れるものだ。
「あっ!」
杉浦を囲んでいた誰かが杉浦の頭を叩いた。
大海は慌てて人垣の中に入って杉浦を助け出した。
「なんだよ~」
「なんだよじゃない!」
大海は杉浦を背中に隠すようにする。
「頭を叩くな!」
「うわっ!心狭っ!」
呆れたように言うチームメイトにそうじゃない!と大海は頭を抱える。
「…いいよ。永瀬、言うから」
「……何かあるのか?それ位上手いのに今まで部活に入部しなかった訳が…?」
キャプテンが怪訝な表情を見せた。
「はい。実は……」
杉浦は包み隠さず自分の事を言った。
それを茶化すやつなんて誰もいなかった。
当然だ。今見せられたあれが使えないなんて思えない。
「なので、選手は無理なんです。でも……やっぱりしたいから」
杉浦が顔を俯けた。
その綺麗な顔が儚げに見えてくる。
「迷惑だといわれれば……」
「言うはずないだろう」
キャプテンが頷いた。
「しかし驚いたな。大海と吉村は知っていたんだな?」
「何をですか?」
「綺麗なの!あとトスも」
「…まぁ、去年中学ん時の県大会で対戦してるから」
吉村と大海は顔を合わせて頷いた。
「…目の事も?」
「俺は昨日聞いた。大海は前からだろ?」
「ああ」
「だから、付き合ってる、なんだ?」
「……俺はソレの意味よくわかんねぇけど…」
キャプテンに聞かれて大海の頭は何と答えていいのか分からない。
「永瀬が目の事知って色々と気を遣ってくれるから…」
杉浦が顔を俯けてはにかみながら言葉を濁す。
ダレコレ?
いかにも何かあります的な杉浦の態度に絶句する。
いつも表情を出さない杉浦なのに。
こんな杉浦見た事ないけど?
「杉浦…?」
大海が杉浦の顔を覗きこむように見た。
「旦那……大変だね」
大海が杉浦を怪訝に見れば、吉村が茶化してくる。
「お前はさっきから旦那、旦那、ってなんだよ」
「え?杉浦の旦那でしょ?」
「はぁっ!?意味わかんねぇ」
「永瀬にはいつも迷惑ばっかかけてる…」
杉浦はそれに否定もしないし、それどころか申し訳なさそうな顔をして俯く。
「だから!迷惑なんかじゃねぇって!」
頭をうな垂れる杉浦の頭に思わず大海は手を伸ばして撫でた。
「………さっ!!練習するぞ!!」
呆れたような声のキャプテンの声が体育館に響く。
「はぁ………杉浦…楽しい?」
吉村も呆れた声。
「ああ!勿論」
あ、いつもの杉浦だ。
くすっと笑いながら顔を上げた杉浦はいつものあまり読めない表情の平静な顔だ。
なんだったんだ?と大海はじっと杉浦を見た。
「何?」
杉浦がばつの悪そうな顔をして顔が仄かに赤くなっている。
やっぱ可愛いじゃないか。
「いや、今は可愛い。さっきのは怖いぞ」
「……あれ?気づいてる?」
吉村がめずらし~と目を丸くした。
「?」
「…違う。永瀬はただの動物的勘なだけだろ」
「なんだ」
杉浦と吉村の会話が大海は全然理解できない時があると大海は首を捻った。
2年のセッター渡辺先輩に杉浦は付きっ切りでオーバーのパスからトスの出し方を教えていた。
「こう手首がボール持った瞬間に反る感じで指先だけで…即効の時だって手首かたくなっちゃだめだ」
「杉浦は…そんなに上手いのに…自分がって思わないのか?」
「迷惑にならないなら。試合になったら絶対迷惑になる。さっきのもレシーブは受けてなくて吉村が綺麗に上げてくれたから出来る事でそうじゃなかったら俺は何も出来ないから」
杉浦は淡々と答える。
いいけど、渡辺先輩の顔が杉浦見て赤くなってるのは絶対気のせいじゃないと思う。
どうしても杉浦が気になってそっちにばっかり意識が向かってしまう。
そしたら杉浦と目があった。
「永瀬、余所見しすぎ」
「…すんません」
杉浦からの注意。
だって気になるんだもんよ!
「アタック練習するぞ。レフトの時杉浦、渡辺と交代で入ってみろ」
キャプテン青山の言葉にはい、と杉浦が答えた。
セッターが打ったボールをセッターに返してジャンプしてアタック。
始めはセッター渡辺からで杉浦もアタッカーに混じって並んでいた。
そういや杉浦のアタックってどんななんだろ?
大海は自分の番が終わって杉浦の番になるのを待った。
それも綺麗なお手本のようなアタック。
うちの他のアタッカーよりずっとキレがあるし威力もある。
はぁ、と杉浦が打ち終わると部員の誰もがため息を吐き出した。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学