「…ねぇ、どうした?俺、全然ダメ?」
杉浦の打ったボールが反対側のコートで見ていた大海の所に飛んできたのでそれを受け取り杉浦に渡した。
「反対。よすぎ。お前……」
大海はがくっと肩を落とした。なんで杉浦はこんなに自信なさげなんだろうか?強気発言するくせに。
一緒にアタック練習の列に戻りながら話をする。次々と音が響くけれどどれも中途半端な音。
「でも俺達が悔しがるより、杉浦の方がよっぽど悔しいよな…」
ついよしよしと頭を撫でてやる。それでもバレーをすると言った杉浦は強い。
「…辛いときでもなんでも言っていいから…」
辛くないはずがない。
「……………ああ、ありがとう」
杉浦が顔を俯けて小さく言った。
「でも、いいんだ。今は俺というより、永瀬を世に出してやらないといけないから…」
「は?俺?」
「当たり前だろ。お前がこんなとこにいていいはずないから。そのためにもセッターくんとチームには頑張ってもらわないと」
セッターくんって先輩なのに…。
大海は杉浦の言い方に呆れた目を向けた。
オープンからレフトに向きを変えてのアタック練習で杉浦に交代する。
じっと大海は杉浦を見た。
杉浦の片手を上げてボールの下に入り込む姿が好きだ。
その後のボールに触れて深く沈む指。
音もなく放たれるトス。
綺麗な放物線を辿るトス。
「…熱烈視線だね」
大海の後ろに並んだキャプテンの声だ。
「だって綺麗でしょう?」
「確かに」
「あれを打ちたかったんだよなぁ…」
大海は杉浦から視線を外さないで言った。
「あ、トスのほう?俺はまた杉浦に見とれてんのかと思ったけど」
「まぁ。杉浦も綺麗だけど」
そこは素で頷く。
「……あ、そう。お前、まじでアイツ好きなの?」
「……………なんでそれ聞くんすかね?」
「そりゃあ聞きたいから?」
キャプテンが笑ってた。
「なんで女いるのに男いくかなぁ?って?」
「…別にそんなんじゃないんだけど…」
「でも普通にトモダチでもないよな?」
「まぁ…。だってあれみたら惚れちゃうでしょ?」
「ん~~~…トス?」
「当たり前です」
「お前の言い方も微妙なんだよ。」
キャプテンが笑ってた。
「杉浦、ヤバイかもよ?」
「え?何が?」
キャプテンの視線を追うとバスケ部連中が杉浦を指差して見ていた。
男も女も。
はぁ、と大海は嘆息する。
「旦那、大変ね?」
「…だから旦那ってなんすか…」
キャプテンにまで旦那呼ばわりかよ、と大海が力が抜けそうになる。
「永瀬?」
「うす」
杉浦の声に大海は返事した。ボールを杉浦に向かって放り、そして助走。
綺麗な弧を描いて落ちてくるボールを思い切り叩きつける。
「おお~~~」
周囲から声が上がるのに小さく頭を下げた。
気持ちいい。
すかっとする。
ここ最近の鬱屈とした気分はどこかに消えていた。
「大海…杉浦のトスって打ちやすい!」
「でしょ?」
大海が列に戻ると前に並んでいた2年の先輩が言ってきた。
ずどんと大海の次に重い音が響く。キャプテンだ。
悪くないんだよなぁ…。
でもなんか足らない。大海の後ろに戻ってきた青山に大海は口を開いた。
「なんでキャプテンもうちょっと足らないんすか?」
「は?」
「後もう少しすれば化けるのに」
大海が言うとキャプテン青山は考え込んだ。
「もう少ししたら俺は使えそうになるか?」
「なりますよ。俺位までは無理っすけど」
青山が大海の頭をげしっと叩く。
「……少し予選まで気合入れるか?」
「入れてください」
「…だよな。これじゃお前が可愛そうだ。なんでよりによってウチなんかに入ったんだか…」
はぁと青山もため息を吐き出している。
「ん~~…でも杉浦いるし、かえってよかったかも」
大海が真面目な顔で答えると青山が呆れた顔をした。
「ソレ告白?」
「はぁ?」
だからなんで全部杉浦につなげるかな…。
「杉浦!ちょっと試合形式で大海とのコンビネーション見せて?」
キャプテンが杉浦に言っていた。
「渡辺、立って見とけ。スタメン、コート入れ、残りは向こうでボール受けろ」
「…別に永瀬だけじゃなくても呼んでくれればトス出すんで。声、一番大きい人のとこに出します」
全部俺が打ちたいのに!
大海はむっとする。
杉浦としたかったのは自分なのに、とまた変な独占欲が出てきた。
いや、そうじゃないだろう、と大海は頭を振った。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学